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松本山雅に刺激を受けたエース根本凌
上田西が長野県勢初の4強入りへ王手

前半12分、白尾監督が見せた「強気の采配」

試合を決定付ける5点目を挙げたエース根本(10)
試合を決定付ける5点目を挙げたエース根本(10)【写真は共同】

 初戦で強豪・京都橘(京都)を撃破し、勢いに乗る上田西(長野)。しかし1月3日に対峙(たいじ)する3回戦の相手、帝京大可児(岐阜)も前日の滝川第二(兵庫)戦で0−2から3点を奪う大逆転劇を見せているだけに侮れなかった。加えて、この日の駒沢陸上競技場はすさまじい強風。白尾秀人監督は前半、風下からスタートする腹積もりだったが、コイントスで負けて風上へ。いきなりシナリオが狂った。


 そこで指揮官は強気の采配を見せる。4−3−3の右FWで先発起用していた上原賢太郎を前半12分に下げ、ロングスローを武器とする田嶌遼介を投入。風を生かしながら攻撃チャンスを作ろうと試みたのだ。この思い切った交代がズバリ的中し、序盤は攻め込まれていた上田西はじわじわとリズムをつかみ始める。そして前半終了間際、左サイドバック丸山圭太の超ロングFKがゴールに突き刺さり、最高の時間帯に1点を奪ってゲームを折り返すことに成功した。


 上田西の勢いは後半に入ってからもとどまるところを知らず、開始50秒に田嶌の右クロスからエース・根本凌が絶妙のタイミングで飛び込んでヘッド。白尾監督が熱望していた流れの中からの得点でリードを広げた。ここから帝京大可児も猛攻を仕掛けてきたが、今度はカウンターがさく裂。後半17分と後半24分にラッキーボーイの田中悟が立て続けに3、4点目をゲットした。


 仕上げは後半27分のエース・根本の5点目だ。右サイドからボールを受け、ドリブルで中に切れ込んで右足で仕留めた一撃は「練習でやっていた通りのプレー」と本人も満足そうだった。結局、試合は5−0。「今日は3−0かなと思っていた」と言う白尾監督も驚くゴールラッシュで、上田西は長野県勢41大会ぶりの8強入りを果たした。

神奈川出身の根本が踏み出した大きな一歩

 ロングスローで流れを引き寄せた田嶌、豪快な先制点をマークした丸山、途中出場で京都橘戦のPK奪取に続く働きを見せた田中悟、大声を出して2試合連続無失点を演出したキャプテン・大久保龍成らも大いに奮闘したが、やはり今回はエース・根本に2点が生まれたことが非常に前向きな要素と言える。「FWがずっと頑張っていて、昨日もチャンスを作っていたから、どこかで点が入ればいいと思っていた」と指揮官も話すように、根本のゴールを待ち望んでいた。


「県大会の4回戦(飯田戦)で2点を取ってから、なかなかゴールが取れなかった。ゴール前のスプリント回数が減ったのが原因だと白尾監督から言われていたけれど、それを修正したことが今日の結果につながったと思います。


 監督は元FWなのでポジションの取り方もアドバイスしてくれる。自分はゴールを背にした状態でボールを受けていたけれど、『半身で受けることでプレーのバリエーションが増える』と県大会の後に言われて、そこに取り組んだのは大きかったです。左右のサイドからのカットインのシュート練習も自主的に練習して、それを形にできたのも良かったです」と背番号10は爽やかな笑顔を見せた。


 地元出身者が大半を占める上田西にあって、彼は数少ない県外出身者だ。神奈川県茅ヶ崎市で小学校3年からサッカーを始め、中学時代は元日本代表MF木村和司氏が主宰するシュートFCでプレー。同時に湘南ベルマーレのスーパークラスにも通い、ユースのセレクションを受けたが不合格の憂き目に遭ってしまう。そんな時に浮上したのが、上田西行きの話だった。


「シュートのコーチと上田西の渡邊先生(善和総監督)が懇意にしていて、練習参加することになったんです。その年の長野県大会決勝にも行きましたが、試合を見て『このチームで選手権に行きたい』と強く思いました」と彼は言う。6つのJクラブがある神奈川県からサッカー不毛の地と長く言われた長野県へ赴くのは勇気がいることだったが、チームメートの清水詩音とともに未知なる土地へ行き、新たな一歩を踏み出した。

松本山雅との練習試合で上がったモチベーション

 かつてヴァンフォーレ甲府や松本山雅FCでプレーしたプロ経験のある白尾監督との出会いも大きかった。練習や試合で自分に足りない部分を明確に指摘してくれる指揮官のアプローチが響いて、彼は名実ともにエースFWへと飛躍。今回の大舞台に立った。


「白尾監督が松本山雅の元選手だった関係で、山雅のトップチームとも練習試合をさせてもらいました。その時、自分をマークした飯田(真輝)選手がメチャメチャ強くて、これが本物のプロなんだと実感しました。


 その飯田選手が地元テレビのインタビューで『上田西は根本選手が攻撃のスイッチを入れる役。彼の存在が重要だ』と話しているのを聞いてモチベーションが上がりました。その試合(練習試合)には、昨季J2で19点を取った高崎(寛之)選手も出ていたけれど、高崎選手みたいに点が取れて前線でターゲットになれるFWが僕の目標。この大会で少しでも近づけたらいいと思っています」と根本は言う。


 けがで大舞台に立つことができない清水のためにも、1つでも多くのゴールを奪って上田西を勝たせることが彼に課された使命だ。5日の準々決勝の相手は明秀日立(茨城)。両校のコーチ同士が大学の同級生ということもあり、敵将の萬場努監督は「絶対に負けたくない」と語気を強めていた。最前線に陣取る根本にも厳しいマークを付けてくるはず。それをいかにかいくぐってゴールをこじ開けるのか。このハードルを超えることが上田西、そして根本自身の今後を大きく左右すると言っていいだろう。


「僕は鹿屋体育大に進みますが、将来はプロを目指しています」と本人も言うだけに、得点に絡む結果を出さなければならない。上田西が4強入りすれば、長野県勢初の偉業となる。歴史を塗り替えるべく、エースナンバー10を背負う男には大仕事をしてほしい。

元川悦子
元川悦子
1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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