日本文理の躍進を支える周到な強化 積み上げから生まれた“文理スタイル”

大島和人

駒沢監督が立ち上げた中学生チーム

亀山(右から2人目)などチームの軸となる人材がエボルブジュニアユースFCの1期生となる。写真は1回戦のもの 【写真は共同】

 駒沢監督は1985年からチームの指揮を執っており、現在56歳。定年間際になって初出場を果たし、全国の舞台でも成果を出した。そんな指揮官には「高校サッカーが楽しくないくらいに思っていた」時期があったのだという。

 駒沢監督は振り返る。

「高校サッカーがグーンとビッグになってきたじゃないですか。その頃は、普通の高校の部活動が太刀打ちできる競技じゃないなと思っていました。けれど人工芝のグラウンドができて、そのときは定年まで10年くらい。少しずつ強化して、次の世代に引き継いでいこうというところからでした。県内にちょっと目立つ子がいるとそれを奪い合うというか、そういう環境が嫌でした。だったら同じコンセプトで育てた子たちで勝負しようよというところからのスタートで、その1期生が今の3年です」

 転機は中学生年代のチーム、エボルブジュニアユースFCの立ち上げだった。新潟には「長岡ジュニアユースFC」という同年代の強豪クラブチームがあり、帝京長岡のグラウンドで活動している。この系列からは小塚和季(ヴァンフォーレ甲府)のような人材を既に輩出していた。新潟明訓も中学生年代のクラブを持っている。

 日本文理は人工芝グラウンドの完成を契機として、駒沢監督が主導し、2012年に系列のクラブチームを立ち上げた。エボルブは高校生が全体練習を終えた後に、水木土日と週4日の活動を行っている。今大会2得点のFW亀山来駆、主将でセンターバックの長谷川龍一らチームの軸となる人材が1期生で、そのまま日本文理の門をたたいた。

戦略を立て、「普通」から飛躍した日本文理

 高校は彼らが入部した時点でN2(新潟県2部)のカテゴリーを戦っていた。そこから16年はN1、17年はプリンスリーグ北信越へとステップアップ。今季は富山第一(富山)、帝京長岡、星稜(石川)に次ぐ4位でフィニッシュしている。駒沢監督は「プリンスリーグに今年上がれて、強い相手と戦えたところが大きかった」と、昇格の効果を口にする。今大会で対戦した立正大淞南、旭川実業、作陽は選手権の常連でいずれも「プリンス」で、日本文理は初出場でも同じレベルを既に経験していた。

 久住はU−12、U−15とアルビレックス新潟でプレーし、U−18は昇格を逃した。「このチームなら全国に行けるんじゃないかと思った」というシンプルな理由で、日本文理を選んだ。彼はエボルブの1期生とも何度か対戦していて、そこに可能性を感じていた。「けっこうアルビが負けたりしていましたし、うまいし強いというのは分かっていた。彼らと一緒にサッカーしたいと思った」と久住は言う。

 エボルブは1期生が卒業した後も、16年に夏の全国大会(クラブユース選手権U−15)に初出場。17年夏の同大会はJリーグの育成組織と横一線の戦いで、ベスト16入りとさらに躍進している。つまり、今いるメンバーよりさらに実績を出した世代が、これから入部してくる。

 周到な強化が奏功し、日本文理は躍進した。ベテラン監督も「高校サッカーが楽しくない」とまで感じた苦しい日々を乗り越えた。日本サッカーの底辺が整備されたことで、「普通のサッカー部」が全国を狙うことは難しくなったのかもしれない。ただ日本文理は人工芝グラウンドの整備という投資はあったにせよ、発想を変え戦略を立て「普通」から飛躍することに成功した。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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