勝負への執念を燃やした米子北と仙台育英 監督同士のひたむきな戦いも時にはある
最後まで集中を切らさなかった米子北
仙台育英vs.米子北の試合は、前半に城市太志が挙げた1点を守り切り米子北が勝利 【写真は共同】
前半は、米子北が中盤のルースボールを拾い続けて優勢に立ったかに思えた。その中で仙台育英の石川巧実主将は「前半は流れがあまりよくなかったので、『前半は0−1のまま我慢しよう。後半、セットプレーの一発で追いつける』という話をしました。それをメンバー11人全員で共有できた」と相手に2点目を許さなかった。ベンチから石川のキャプテンシーを見ていた城福敬監督は「ピッチの中に指揮官がもう1人いるようなもの」と感服していた。
後半、仙台育英は長身選手を前線にそろえて、空中戦から好機を作り続けたが、平均身長わずか170センチの米子北は集中力を切らすことなく、アディショナルタイム4分まで続いた仙台育英の猛攻を防ぎ切った。
「差を分けたのはプレミアリーグの経験じゃないかなと思います。クリア1つにしたって、米子北は小さいクリアは1本もなかったと思う。だからクリアを蹴られても、うちのDFが胸でトラップして、そのまま前に行くようなシーンがなく、必ず後ろに行かされた。その場を逃げるクリアにしても、ちょっと質が違っていた。うちは岡崎慎司じゃないけれど、身体のどこかに合わせる。そういう気持ちがちょっと弱かった」(城福監督)
アディショナルタイムで中村監督が見せた行動
「今年のチームは真面目で、自分たちのチームに力がないことを前提にトレーニングしている。本当に我慢強いのが彼らの特徴かもしれない。それが出た試合だった」(米子北、中村真吾監督)
両チームとも交代カードをドンドン切り、システム変更を繰り返した総力戦。勝負への執念を燃やし続けた試合だったからこそ、アディショナルタイムで中村監督がタッチを割ったボールを急いで相手の仙台育英の選手に渡したシーンには驚いた。
「あれがフェアプレーだとは全然思っていない。相手も一生懸命じゃないですか。一生懸命な選手に対して、プレーを遅らせるようなボールはとてもじゃないが投げられない。やっぱり一生懸命と一生懸命がぶつからないといけない。
相手が一生懸命やっていなかったら、もしかしたら(スムーズには)投げなかったかもしれない。あれだけ体を張って一生懸命やっているチームに対して、そんなことはできないです。お世辞抜きで、あんなに最後まで戦う素晴らしいチームと戦えてうれしかったです」
城福監督「恥ずかしい負け方じゃなかった」
「正直、体力には自信がありますので休ませたくなかった。ボールがピッチの中に入れば、どっちにしろ休めないじゃないですか。相手がボールを持って、時間をかけてセットされて、一瞬のパワー勝負に持ち込まれればデカくて強い方が勝ちますから」(中村監督)
167センチのセンターバック、三原貫汰キャプテンは、このシーンを「米子北らしかった」と振り返る。
「あれはスポーツマンシップでした。相手がいなければサッカーはできない。相手をリスペクトして試合を進めていく。相手のことも考えて、その上でしっかり守り切れたことが今日は良かったと思います。相手を尊重して、監督、応援、観客、その全員がいてサッカーができるということを日ごろから言われています。そういうことをもっと大事にして、試合をやっていきたいと思います」(三原キャプテン)
時間稼ぎをせず、負けている相手にすぐにボールを返した中村監督の行為は、城福監督のサッカー観とも合ったようだ。
「ワールドカップを見ていても、ドイツの選手は交代する時も、時間稼ぎをせずにスッと代わる。高校生や中学生がまねすればいいのはそこ。そっちのほうが観客もすがすがしいと思います。勝つために何をしてもいいということではないと思います。勝つには勝つためのやり方があるし、負けるにも負け方があるのではないかと思う。最後まで必死に戦うことだと思います。そういう意味では、今日の負けは(選手にとって)悔しいだろうけれど、恥ずかしい負け方じゃなかったと思います」
高校サッカーには、高校生に負けぬ監督同士のひたむきな戦いも時にはあるのだ。
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