勝負への執念を燃やした米子北と仙台育英 監督同士のひたむきな戦いも時にはある

中田徹

最後まで集中を切らさなかった米子北

仙台育英vs.米子北の試合は、前半に城市太志が挙げた1点を守り切り米子北が勝利 【写真は共同】

 1月2日にニッパツ三ツ沢競技場で行われた第96回全国高校サッカー選手権の2回戦、米子北(鳥取)は立ち上がり3分に城市太志が挙げた1点を守り切り、1−0で仙台育英(宮城)を下して3回戦に進出した。

 前半は、米子北が中盤のルースボールを拾い続けて優勢に立ったかに思えた。その中で仙台育英の石川巧実主将は「前半は流れがあまりよくなかったので、『前半は0−1のまま我慢しよう。後半、セットプレーの一発で追いつける』という話をしました。それをメンバー11人全員で共有できた」と相手に2点目を許さなかった。ベンチから石川のキャプテンシーを見ていた城福敬監督は「ピッチの中に指揮官がもう1人いるようなもの」と感服していた。

 後半、仙台育英は長身選手を前線にそろえて、空中戦から好機を作り続けたが、平均身長わずか170センチの米子北は集中力を切らすことなく、アディショナルタイム4分まで続いた仙台育英の猛攻を防ぎ切った。
 
「差を分けたのはプレミアリーグの経験じゃないかなと思います。クリア1つにしたって、米子北は小さいクリアは1本もなかったと思う。だからクリアを蹴られても、うちのDFが胸でトラップして、そのまま前に行くようなシーンがなく、必ず後ろに行かされた。その場を逃げるクリアにしても、ちょっと質が違っていた。うちは岡崎慎司じゃないけれど、身体のどこかに合わせる。そういう気持ちがちょっと弱かった」(城福監督)

アディショナルタイムで中村監督が見せた行動

 米子北の選手たちは12月31日の1回戦、山梨学院(山梨)との試合で疲弊し切っていたそうだが、仙台育英戦でも体格のハンデを感じさせぬ体を張った守備で完封した。

「今年のチームは真面目で、自分たちのチームに力がないことを前提にトレーニングしている。本当に我慢強いのが彼らの特徴かもしれない。それが出た試合だった」(米子北、中村真吾監督)

 両チームとも交代カードをドンドン切り、システム変更を繰り返した総力戦。勝負への執念を燃やし続けた試合だったからこそ、アディショナルタイムで中村監督がタッチを割ったボールを急いで相手の仙台育英の選手に渡したシーンには驚いた。

「あれがフェアプレーだとは全然思っていない。相手も一生懸命じゃないですか。一生懸命な選手に対して、プレーを遅らせるようなボールはとてもじゃないが投げられない。やっぱり一生懸命と一生懸命がぶつからないといけない。

 相手が一生懸命やっていなかったら、もしかしたら(スムーズには)投げなかったかもしれない。あれだけ体を張って一生懸命やっているチームに対して、そんなことはできないです。お世辞抜きで、あんなに最後まで戦う素晴らしいチームと戦えてうれしかったです」

城福監督「恥ずかしい負け方じゃなかった」

 ただし、時間稼ぎをしなかった行為は、戦術的な効果も秘めていた。

「正直、体力には自信がありますので休ませたくなかった。ボールがピッチの中に入れば、どっちにしろ休めないじゃないですか。相手がボールを持って、時間をかけてセットされて、一瞬のパワー勝負に持ち込まれればデカくて強い方が勝ちますから」(中村監督)

 167センチのセンターバック、三原貫汰キャプテンは、このシーンを「米子北らしかった」と振り返る。

「あれはスポーツマンシップでした。相手がいなければサッカーはできない。相手をリスペクトして試合を進めていく。相手のことも考えて、その上でしっかり守り切れたことが今日は良かったと思います。相手を尊重して、監督、応援、観客、その全員がいてサッカーができるということを日ごろから言われています。そういうことをもっと大事にして、試合をやっていきたいと思います」(三原キャプテン)

 時間稼ぎをせず、負けている相手にすぐにボールを返した中村監督の行為は、城福監督のサッカー観とも合ったようだ。

「ワールドカップを見ていても、ドイツの選手は交代する時も、時間稼ぎをせずにスッと代わる。高校生や中学生がまねすればいいのはそこ。そっちのほうが観客もすがすがしいと思います。勝つために何をしてもいいということではないと思います。勝つには勝つためのやり方があるし、負けるにも負け方があるのではないかと思う。最後まで必死に戦うことだと思います。そういう意味では、今日の負けは(選手にとって)悔しいだろうけれど、恥ずかしい負け方じゃなかったと思います」

 高校サッカーには、高校生に負けぬ監督同士のひたむきな戦いも時にはあるのだ。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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