星稜をまとめたストイックなキャプテン 敷田唯に監督が贈った最高の褒め言葉

Noriko NAGANO

風下を選択した星稜が開始2分で失点

開始2分の失点をひっくり返すことができず、2回戦で姿を消した星稜 【写真は共同】

 1月2日、第96回全国高校サッカー選手権大会の2回戦が行われ、ゼットエーオリプリスタジアムでは、昨年、連続出場記録を17回でストップさせてしまった星稜(石川)が、その雪辱を晴らすために、再び日本一を目指して明秀日立(茨城)との一戦に挑んだ。しかし、立ち上がりの失点をひっくり返すことができずに、2回戦で姿を消した。

 風がやや強いピッチ、星稜はコイントスで前半に風下を選択。開始間もない2分、いきなりスコアが動いた。明秀日立が、左サイドからのクロスを右サイドハーフの二瓶優大が胸トラップしてゴールに突き刺す。1回戦に続き、狙い通りに「15分以内の先制点(萬場努監督)」を仕留めてみせた。

 ゴールを決めた二瓶はこの日の朝、「今日はゴールのにおいがする」とチームメートに伝えていた。そして、試合開始直後にゴールの瞬間を迎えることになった。「試合が始まったときは緊張していたが、前に走っていったら、すーっと力が抜けた」と語ったように、二瓶は落ち着いてゴールを決め、応援団のいるバックスタンドに一目散に走っていき得点を喜んだ。点が取りたくて取りたくて仕方がなかった二瓶。ちょうど前日、小野コーチとともに練習していた胸トラップからのシュートの形が、そのまま試合で再現された。

決定機は作った星稜だが……

 失点直後、星稜の敷田唯キャプテンは、「まだまだいけるぞ」と懸命にピッチの中で声をかけた。相手が蹴ったボールは、風で目測が難しいボールになった。自分のミスから背後を取られ、ワンチャンスをモノにされたが、心が折れることはなく前を向いた。

 その後も互いにロングボールを使って相手の背後を狙い、攻守の切り替えが早い展開となる。星稜は昨年全国出場を逃してすぐにフィジカルコーチを呼び寄せて強化に取り組んだ。その成果の1つとして、ロングスローを投げられる選手が増えたという。中川真太朗がロングスローを生かして相手ゴールを脅かしたが、明秀日立DFに跳ね返され、前半17分に訪れた決定機も決め切ることはできなかった。

 0−1で迎えたハーフタイムには「まだ後半がある。まず1点!」と気持ちを切り替え、自分たちのサッカーでチャンスを作った。ロングスローやCKなどのセットプレーでゴールに迫るシーンがあったが、空中戦に強い明秀日立DF陣が立ちはだかった。星稜は前半1本、後半6本のシュートを打ったが、0−1のまま最後までスコアは動かなかった。

ストイックに引っ張ってきたキャプテン敷田

 キャプテン敷田は残り時間が少なくなっていく中で「自分が一番冷静にならないといけない」とピッチに立っていた。相手の攻撃の勢いが続いたが、星稜DFは敷田を中心によく耐えた。相手の攻撃のキーマン・伊里隼人をうまく抑えて決定的な仕事をさせず、追加点を許すことはなかったが、自分たちの流れのいい時間帯で粘り強く守る相手から1点を奪えなかった。

 メンバーに入ることのできなかった星稜の多くの3年生たちも、懸命に応援で後押ししていた。「全国で勝ちたい」という思いで星稜に入った選手たちだ。今大会のメンバー発表のあと、監督から「外れてからが人間性やぞ」という言葉があったという。それでも、悔しい気持ちを切り替えるのには時間を要したが、「俺らの分まで練習でストイックにやってくれている。日本一になってほしい」という気持ちにたどり着いた。

 監督から敷田がキャプテンに指名されたのは、昨年の選手権出場を逃した直後のこと。新人戦はキャプテンとしてのテスト期間だったが、これをクリアした敷田がそのままキャプテンとなった。「気が引き締まる思いだった」と、指名された日のことを敷田は今でもよく覚えている。それから今日まで、「チームの中心にならなければならない」という一心でチームを引っ張ってきた。チームの中で唯一、選手権を経験しているのも敷田だった。

 そんな敷田と地元が同じで仲のいい金谷圭悟は、「チームの中で誰よりもストイックにやっている」と敷田の姿勢を尊敬し、今日は応援席で心の底から声援を送った。

 試合後、敷田キャプテンはこう言葉を残した。「球際にはこだわってやってきた。(内容は)負けていなかったと思うが、まだ力不足。もっと上にいきたかった。県外から星稜に入ってきている選手たちもいるし、昨年17回で連続出場が崩れて、僕らの代では負けられないというプレッシャーもあった。みんなで1戦1戦、勝ちにこだわってやってきたが、まだまだ甘かった。個性を持った選手たちの先頭に立ってやれて楽しかった。星稜のキャプテンをやれてよかった」

 指揮官の河崎護監督は試合後、「今年のチームはいいチームだった。力は出し切った。それで点が取れなかったということは、相手が上回っていた」。「いいチームだった」という指揮官の言葉は、チームを引っ張ってきた敷田にとって最高の褒め言葉になったに違いない。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント