仙台育英の佐藤一輝、晴れの舞台でハット ライバル・郷家友太への思いが原動力に

中田徹

佐藤がミスを取り返す決勝点

高松商戦でハットトリックを決め、チームを勝利に導いた仙台育英の佐藤一輝(手前) 【写真は共同】

 12月31日に行われた第96回全国高校サッカー選手権の1回戦、仙台育英(宮城)は同点で迎えたアディショナルタイム2分に佐藤一輝の渾身のダイビングヘッドが決まって、高松商(香川)に3−2で競り勝った。

「サッカーのゲームは人生なようなもの。今日の試合は本当に中身の濃い80分だった」と仙台育英の城福敬監督は語った。

 前半、仙台育英のダイナミズムが高松商に勝り、2−0とリードした。しかし後半10分、仙台育英のボールロストから、高松商がカウンターで1点返すと一気に流れが変わり、アジリティー溢れる攻撃で相手を苦しめた。そして18分には堀内洋司の突破をGKが止めたこぼれ球を、横内和眞が押し込んで2−2の同点に追いついたのだ。

「楽に勝つのかなと思ったら、たった1つのミスで流れが変わった」(城福監督)

 城福監督は「流れからすると、PKの分は向こうにある」と感じながらも、仙台育英ベンチはPKを覚悟して、5枚の交代カードを全部使おうとした。しかし39分、仙台育英は足がつっていた貝森海斗を下げるのを一度取りやめ、その1分後にまぶたを切って内出血を起こした志村滉を急きょ下げた。その結果、ピッチに残ることになった貝村が2分後に佐藤の決勝ゴールをアシストするFKを蹴ることができたのだ。

「本当にサッカーは奥が深く、計算できない。だけど左のキックはやっぱり貝森。そこ(FKが左サイドだったこと)も運が良かった。サッカーは自分でも考えつかないことが起こる」

 そして、相手に流れを与えてしまった1失点目につながる痛恨のミスを侵した佐藤が決勝ゴールを決めたことも「サッカーと人生の奥深さ」と、60歳のベテラン監督は感じ入ったのだ。

「後で『お前のせいで流れが変わったぞ。でもお前が(勝利を)決めたぞ』と言おうと思っているんです。そういうのはサッカーでは往々にしてあると思うんですよね。これから佐藤が大学に進んだり、その先の人生を歩んだりしても、良い時も悪い時もある。それでも、(やるべきことを)続けることが“結果”につながる。

 サッカーのゲームは人生なようなもの。自分で(2点を)取ってチームは勝てそうだった。ところが自分が失点のきっかけになって『ひょっとしたら負けるかもしれない』ということになった。それでも、やり続けていたら自分が決勝点を取るんだから、最後まで諦めずにやるということです」(城福監督)

ハットトリックは「狙っていた」

「自分がゴールを決めればチームの勝利も近づく。1点、1点決めていきたい」と佐藤は語る 【写真は共同】

 殊勲の佐藤は「1失点目、自分が絡んでしまった。自分がその借りを返さないといけないと思っていたので、しっかり返せてよかった」と安堵(あんど)の表情を見せていた。

「自分は試合を楽しもうという意識があって、気持ちはそんなに落ちませんでした。だけど、失点に絡んでしまったので自分で取り返さないといけないという意識ではいました」

 ハットトリックは「狙っていた」のだという。

「いろいろ注目選手がいる中、自分がそういう選手に負けないよう、点を取れば自然と注目されるというのがあった」

「プロになりたいから、選手権で活躍して注目されたい」という選手は多くいる。立正大に進む佐藤も将来はプロになりたいから、この大会で名前を売っておきたいという思いはある。しかし、もっと大きな思いは今大会注目の郷家友太(青森山田→ヴィッセル神戸内定)へのライバル心だ。

「郷家に勝ちたい――。そこからだと思います。中学(ベガルタ仙台ジュニアユース)の時に一緒だった郷家友太が一番注目されていると思うんです。自分はやっぱり中学の時からライバルだと思っていたので、それが本当に悔しかった。 やっぱり3点じゃ、まだまだ足りない。アイツだったら1試合ですぐ追いつかれると思うので気を緩めない。チームの勝利を優先したい。でも自分がゴールを決めればチームの勝利も近づく。1点、1点決めていきたい」

 そんな佐藤だが、レギュラーから外れていた時期もあった。しかし、セリエBに所属するイタリアのチームと試合をし、“泥臭い”ゴールを2つ決めたことがレギュラーを取り戻すきっかけになった。

「自分には“奇麗なゴールを決める”というこだわりがあった。しかし、2年の時に『泥臭くプレーしろ』と監督から指摘され、クロスからダイビングヘッドの練習などをやってきた。イタリアのチームから2点を取ったのが、ダイビングヘッドとこぼれ球を押し込むという、まさに泥臭いゴールだった」。そして晴れの舞台で決めたハットトリック。

「1年越しなんですが、努力は本当に実ると今日実感できた。本当にうれしい」

 そういえば第1試合の後、山梨学院(山梨)の加藤拓己主将が「自分たちはサッカーによって育てられた人間たちなのかなと思います」と語っていた。誰もが多くのことをサッカーから学んでいる。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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