3枠目を勝ち取った田中刑事の“夜練” 限界の先につながっていた平昌への道

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順位よりこだわったもの

実質残り1枠と目されていた平昌五輪の切符を手に入れたのは田中刑事となった 【写真:坂本清】

 21日から始まったフィギュアスケートの全日本選手権において、男子シングルの注目ポイントは平昌五輪出場の“3枠目”を誰が勝ち取るかだった。今大会は世界ランキング1位の羽生結弦(ANA)がケガのため欠場。それもあり優勝候補の筆頭には宇野昌磨(トヨタ自動車)が挙げられていた。優勝者はその時点で代表に内定するため、そこに宇野が入り、加えてこれまでの実績を鑑みれば、羽生の選出もほぼ確実といえる状況だった。実質残り1枠を、田中刑事(倉敷芸術科学大大学院)、無良崇人(洋菓子のヒロタ)、村上大介(陽進堂)、友野一希(同志社大)らが争う展開が予想された。

 かくしてその3枠目を勝ち取ったのが、田中だった。ショートプログラムはノーミスの演技で、参考記録ながら自己ベストを更新する91.34点をマークし、2位発進。3位の無良には5.81点差をつけた。フリースケーティングでは、直前に滑走した無良がミスを最小限に抑えて演技をまとめたこともあり、プレッシャーがかかる状態で迎えながら、冒頭の4回転サルコウ、後半の4回転トウループをクリーンに決めた。ジャンプでミスが出たものの、フリーでも無良を上回る175.81点をたたき出し、合計267.15点で2位に入った。

「細かいミスはあったんですけど、本当に今の時間は、今しか味わえない空気だと思って滑りました。今回は順位より、練習したことをどれだけ出せるかにこだわっていたので、後半の4回転もそういうところから来たのかなと思います。力を出せた部分もたくさんあったので良かったです」

 演技が終わった瞬間、田中は天を見上げて目を閉じた。自分に向けられた大歓声、五輪を争う張り詰めた緊迫感。まさに4年に1回、今その時しか味わえない空気だった。

日付が変わる時間まで練習

シーズン序盤のケガで出遅れてしまった田中。しかし全日本に向けてハードなトレーニングを続けた 【写真:坂本清】

 羽生と同級生で現在23歳の田中が、国内のトップ戦線に浮上したのは昨季から。NHK杯で3位に入り、グランプリ(GP)シリーズで初の表彰台に立つと、その勢いのまま全日本選手権でも2位に輝く。しかし、代表に選ばれた四大陸選手権と世界選手権はそれぞれ13位と19位。トップ選手たちとの実力差をまざまざと見せつけられた。

 平昌五輪の代表候補と目されて迎えた今季は、出だしからつまずいた。練習中の転倒により「右腸腰筋筋損傷」と診断され、10月のロシア杯を欠場。11月の中国杯ではショートで自己ベストを更新する87.19点をマークしながら、フリーで崩れて7位に終わった。

 代表選考会を兼ねた全日本選手権まで約1カ月半。その間、試合は1つもなかった。田中はコーチ陣と話し合い、練習量を増やした。朝と昼に加え、夜も22時30分から24時までみっちりとトレーニングを積んだ。林祐輔コーチはその狙いをこう説明する。

「中国杯が終わってから、全日本選手権まで期間が空いてしまう。試合に出られないのであれば、練習でいつもの2倍滑らせて、それをカバーしようという作戦でした」

 夜の練習は、想像以上にハードだった。昼の練習では跳べていたジャンプが、夜は疲れもあり満足に跳べない。林コーチによれば「ここまで練習量を増やしたことはなかった」という。「相当きつかったと思います。僕の方を向いてにらんでいましたから」。林コーチは当時を振り返り、そう笑った。

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