大谷逃すもヤンキースはオフの勝者 評価高まるキャッシュマンGMの手腕

杉浦大介

ヤンキースの監督に就任し、会見で笑顔を見せるアーロン・ブーン 【Photo by Mike Stobe/Getty Images】

 ヤンキースが大谷翔平争奪戦の最終面接にも残れなかったことは、今オフ最大のサプライズと言えた。根拠もないまま“日本のベーブ・ルース”獲得の大本命に挙げられながら、結局は惨敗。その時点では、ヤンキースの今オフは失敗に終わることは必至と思われた。しかし――。

 現在、米国内のメディアは誰もがヤンキースを今オフの“ウイナー(勝者)”に含めている。当初は熱望した大谷の獲得を失敗したことは、ニューヨークではもう過去の話になった。その後に続いた補強策は実にインパクトがあり、少なくとも表向きは効果的に思えるからだ。2017年に予想外の形でワールドシリーズまであと1勝まで迫った名門は、確実にスケールを増している。

“ベースボールとともに育った”新監督

 まずは12月4日(現地時間)、昨季限りで退陣したジョー・ジラルディ監督に代わる新監督としてアーロン・ブーンの就任を発表した。ブーンは09年に引退したばかりで、まだ44歳。データ分析にも精通した若年監督の登用はメジャーの流行ではあるが、ブーンは引退後にコーチの経験もなく、いきなり“一国一城の主”に据えたことをギャンブルと見る関係者も少なくない。

 ただ、12月6日に行われたブーン新監督の就任会見での言葉を聞く限り、ヤンキースのハル・スタインブレナー・オーナーは今回の起用に自信を持っているようだ。

「経験不足は懸念材料ではある。ただ、彼のこのゲームに関する知識には感心させられてきた。ベースボールの周囲で生まれ育ち、人生を通じてその知恵が育まれてきたことは明白だ」

 実際にブーンは祖父、父親、兄がすべてメジャーリーガーという名高いベースボール・ファミリーの出身。父ボブがレッズなどで監督を務めたおかげでアーロンも幼少期からクラブハウスに出入りしており、“ベースボールとともに育った”という表現は大げさではない。そうやって踏んできた場数の多さがゆえか、新監督は冷静さとコミュニケーションスキルにも定評がある。

「私は一貫性のあるタイプの人間だ。好調時でも、そうでないときでも、同じように振る舞える。起用法を失敗し、批判されるときもあるだろう。それは構わないよ。この機会を得たとき、その点について心配はしなかった」

 会見時にブーンが残したそんな言葉に、現役時代に彼に取材経験のあるメディアは誰もが納得したはずだ。

 ヤンキース時代の03年にア・リーグ優勝決定シリーズ第7戦で放ったサヨナラ弾が余りにも有名なブーンだが、特に打者としては波の大きさで知られた選手だった。その劇的なホームランの後も、マーリンズとのワールドシリーズでは打率1割4分3厘(21打数3安打、6三振)で敗因の1つになっている。ただ、本人が言う通り、ヒーローになっても、戦犯になっても、ブーンはメディアの前では常に平常心を保てる選手ではあった。

 痛恨の敗北の後でも、辛抱強く質問に答える忍耐力の持ち主。そんな性格、キャラクターは、大都市ニューヨークの指揮官には必要な要素に思える。だからこそ、まだ実際に現場で結果は出していなくても、ブーンの監督起用は地元ではまずは好意的に受け取られているのだ。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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