オグリの奇跡、有終の豪脚ディープetc. 有馬記念引退レースをプレーバック

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2003年シンボリクリスエス 初めて有馬当日に引退式

 今でこそ、「レース後に引退式」というのは割と普通になっているが、90年代では普通どころか異例中の異例、前代未聞のことだったように思う。そんな“非常識”を初めてやってのけたのが藤沢和雄調教師。1998年のタイキシャトルで、当時12月開催だったGIスプリンターズステークス後のことだった。

シンボリクリスエス(右)は9馬身の圧勝! 当日に引退式が行われるのも有馬記念では初めてのことだった 【写真は共同】

 それから5年後の2003年、藤沢和調教師は今度は有馬記念後に初めて管理馬の引退式を行った。それが当時の中距離戦線の王者シンボリクリスエス。日本競馬史上最強マイラーの声が上がるタイキシャトルですら、引退式を控えたラストレースでは足元をすくわれる3着に敗れていた。それだけに、レース後の引退式を公言した中で迎える2度目の競馬は、陣営にとって計り知れないプレッシャーだとも思ったが、ふたを開けてみればシンボリクリスエスがレベルの違いを見せつける9馬身差の圧勝。その強すぎる姿に「引退するのがもったいない。来年も十分活躍できるのでは」と思ったのは、筆者だけではないはずだ。

 当時でもまだ賛否両論あったとは思うが、レース後の引退式も無事に行われ、このシンボリクリスエスの“成功”があったからこそ、現在では当たり前となった「レース後に引退式」の流れが出来上がったとも言える。レース後に引退式を行うことは、馬の負担を減らせる(引退式のためにまた調教で体を作らなくてもよく、トレセンに戻らずにそのまま牧場に旅立つことができる)というリスク軽減の理由から生み出されたもの。藤沢和調教師の先進的な取り組みは何も調教だけではなく、競走馬の人生そのものを見据えたものであることを示した見事なアイデアだった。

06年ディープインパクト&13年オルフェーヴル 最後も圧勝

 シンボリクリスエス同様、「来年もまだまだ活躍できそうなのに……」とその後の引退式で別れを惜しまれるぐらい、破格のパフォーマンスを有馬で示した主役と言えば、06年ディープインパクト、13年オルフェーヴルの、2頭のクラシック三冠馬だろう。

 両雄いずれも同年秋に凱旋門賞に挑戦し、勝利こそならなかったものの、ディープインパクトはジャパンカップ→有馬記念を連勝、オルフェーヴルはぶっつけの有馬で格の違いを見せつけた。

 共通することと言えば、2頭ともに生涯最高のパフォーマンスを披露したのではないか――と思えるほどの走りを見せたこと。

ディープインパクトは最後もターフを“飛ぶ”走りでファンを沸かせた 【写真は共同】

 武豊を背にしたディープインパクトは後方3番手から。アドマイヤメインが1ハロン11秒台後半の速いラップで大逃げする展開に、場内からはザワめきも起こったが、当の武豊&ディープは慌てず騒がず悠々と追走。そして、2周目の3コーナーから4コーナーにかけて大外を一気に捲っていくと、ラストの直線は「最後の雄姿を見てくれ!」と言わんばかりに、馬場のど真ん中を楽々と突き抜けた。

オルフェーヴルは8馬身差の大楽勝! ラストまで破天荒な強さを見せてくれた 【写真:中原義史】

 一方、オルフェーヴルも驚愕の圧勝劇だった。後方4番手からディープ同様に3〜4コーナーで一気に捲って進出すると、直線は後続をグングン置き去りにするばかり。シンボリクリスエスの9馬身差に迫る8馬身差の独り舞台だった。さらにオルフェーヴルの場合、この着差だけでもビックリなのに、池江泰寿調教師いわく「出来は8割」だったと言うのだから、なおさら驚かされたのを覚えている。

 有馬記念後に行われた引退式にはいずれも5万人以上のファンが残り、別れの言葉を送った。この“強すぎる有馬”で強烈な印象を残しつつ去るからこそ、ディープ、オルフェの2頭は「日本競馬史上最強馬」の一角として、強い姿のままファンの記憶に残り、今もこれからも語り継がれていくに違いない。

ジェンティルドンナはオグリと同じく4番人気を覆しての復活V 【写真:中原義史】

 また、牝馬三冠のジェンティルドンナも14年有馬記念で有終を飾った。その年はドバイシーマクラシックを制し海外GI馬の仲間入りを果たすも、その後の宝塚記念、天皇賞・秋、ジャパンカップで敗戦。さすがの女傑も衰えたかと思われたが、戸崎圭太を背に華麗に復活。奇しくもオグリキャップと同じ4番人気からの復活勝利であり、父ディープに並ぶGI七冠締め。その劇的さは“貴婦人”の名にふさわしいラストレースだった。管理する石坂正調教師は「ジェンティルドンナのベストレースはこの有馬記念だ」と語っている。

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