クラブW杯5位が示す浦和の方向性 最終戦で生まれた来季を照らすゴール

島崎英純

攻撃が機能した5位決定戦

初戦とは打って変わり、カサブランカとの5位決定戦では攻撃が機能した 【写真:ロイター/アフロ】

 失意の2日間を経て、浦和はアル・ジャジーラ戦を戦ったアブダビからUAE東端のアル・アインへと場所を移し、アフリカ代表のウィダード・カサブランカとの5位決定戦に臨んだ。

 興梠が、この試合に対するチーム全体の総意を述べた。

「開催国のチームに負けて悔しかった。でも、今回はシーズン最後の試合になるので、とにかくこの試合に勝って、胸を張って帰ろうと(皆で)話した。初戦の決定機は決めないといけなかった。アル・ジャジーラを相手に1本のチャンスしか作れなかったことは自分の実力のなさの結果なのかなと。今の自分たちのレベルは高いものではないので、あとは上げていくだけだと思っていた」

 浦和はカサブランカ戦に際してスタメンを3人代えて臨んだ。DFマウリシオ、MF長澤がピッチに立ち、アル・ジャジーラ戦の試合途中に左足を痛めて交代した遠藤に代わって、森脇良太が右SBのポジションに入った。一方のカサブランカは前戦のパチューカ(メキシコ)との準決勝で延長戦負けした疲労が考慮されたのか、8人ものメンバーを入れ替えていて、その試合展開が注目された。

 ゲームは試合開始から浦和が攻勢に出る。1トップの興梠の周囲には常にインサイドハーフの柏木陽介と長澤が控えていて、サイドMFのラファエル・シルバと武藤も頻繁(ひんぱん)に中央エリアへポジションシフトして相手ゴール前へ侵入する構えを見せた。そして味方サイドMFが空けたサイドレーンにはSBの槙野智章と森脇が積極的にオーバーラップして飛び込んでいく。試合後に柏木が攻撃的な戦い方の意図について明かしてくれた。

「今までは1人、もしくは2人で攻め切る形が多くて、なかなか点が取れなかった。そこで今回は後ろでボールを回している中で、俺と(長澤)和輝のどちらかが前に残る形にした。またセンターバックが前にボールを持ち出していく形にして距離感も詰めて、うまく攻撃も循環したと思う。ミシャ(ペトロヴィッチ前監督)がやっていたときのように、真ん中に3人いて、サイドにも人がいるような状況を作り出していかなければならない。今日の攻撃はミシャが監督の頃に近かったと思う。コンビネーションを出しやすい形だったし、自分が前に入っていくと攻撃が活性化する」

選手たちには新たな芽生えが

 柏木が試合中に後方でボール保持するキャプテンの阿部勇樹に対して「自ら前へボールを持ち運んでこい!」とばかりに手を振っていた仕草が印象的だった。今シーズンの中盤に突如不安定化した守備によってペトロヴィッチ前監督がクラブから契約解除される憂き目に遭い、浦和は約5年半続いた体制が崩壊した。サンフレッチェ広島ユース時代に自らの能力を見いだしてくれた指揮官との別れは柏木にとって負い目となり、その恩義に報いるためにも戴冠の可能性を残していたACL、そしてCWCに懸けるモチベーションは人一倍高かった。

 それでも、タイトルを得るには懸念の守備整備が必須だった。チームは堀新監督の下で一念発起し、まずは極端化していた攻撃への傾倒を改め、チームバランスを整えることでタイトルへの道筋を示した。ただ、アジアで戴冠を果たした今、柏木以下、選手たちには新たな芽生えがあった。

 興梠が言う。

「今季の喜びとしては、ACL優勝がそれに値する。悔しさという意味では、このCWCとリーグ戦がそれにあたる。ミシャのサッカーは、やっていて楽しかった。ただ、今のサッカーも攻撃をブラッシュアップすればレベルは上がっていくのかなと思う。それには攻撃のパターンなどを確立しないといけないし、修正しなければならないこともある。守備の部分は向上したけれど、攻撃は他のチームと比べてもまだまだ。個人的にはよくここまで来られたなと思うぐらいのレベルだった。僕らには、もっと強い時期があったから。一人一人がレベルアップしないと、こういう大きな大会で成果を残すことはできない」

来季以降も懸案となる攻撃面

浦和が変革期に突入していることを痛感したCWCとなった 【写真:ロイター/アフロ】

 試合は前半18分、DFのマウリシオが相手ゴール中央約25メートルの位置から豪快な右足シュートを蹴り込んで浦和が先制を果たす。21分に相手MFイスマイル・エルハダッドにFKから同点ゴールを決められたが、集中力を保ち続けた浦和は26分、その気高い意思をピッチ上で示す。

 相手ペナルティーエリアライン右から長澤、武藤、興梠、ラファエルとパスが繋がり、ラファエルの左クロスにファーサイドから飛び込んだ柏木がスライディングしながら左足でシュートを決めた。実に5人の選手が関与したワンタッチパスワークは、コンビネーションプレーの理想形でもある。2017シーズンの公式戦最終戦で生まれた究極のゴールパターンは、来季の道筋を明るく照らす、チーム全体の総意でもあった。

 試合はその後、後半15分に再びマウリシオがゴールを決めて3点目を奪取した浦和が、試合終了直前にPKを決めて追撃したカサブランカを振り切って勝利をもぎ取った。

 浦和が抱える攻撃面の閉塞は来季以降も懸案事項になるだろう。攻守バランスに留意する堀監督は無闇なチャレンジを良しとせず、前任のペトロヴィッチ氏が主要な武器としたフリックパス(ワンタッチで自身の横や後方へボールを流すプレー)を禁止する形で相手にボール奪取されるリスクを軽減した。過去5年間、縦横無尽のパスワークでJリーグを席巻した「ペトロヴィッチ式フットボール」は影を潜め、そのコンセプトは形骸化(けいがいか)しつつある。一方で堀監督体制が成し遂げたACL制覇の偉業は、新指揮官が懇切丁寧に整備したチームバランスが機能したことが要因で、強固で辛抱強い守備組織は新たなチームスタイルとして浸透しつつある。

 しかし、攻撃から守備への極端な振り幅は組織の団結を揺るがす要因にもなり得る。結局CWCでは5位を死守したが、準決勝のレアル・マドリー戦には到達できず、大会を通じた試合内容も納得し切れるものではなかった。カサブランカ戦の2ゴール目に表れた選手たちの意思が、コーチングスタッフ側とシンクロして正しい方向性を導き出せるか否か。すべては来季始動直後の強化キャンプからの各人の行動に懸かっている。
 
 浦和は今、否応なき変革期に突入している。17年のCWCは、それを痛感する大会になった。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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