各地を点在して再認識した「浦和」の魅力 ライター島崎の欧州サッカー見聞録(6)

島崎英純

電車の遅れを気にしないドイツ人

今回はドイツからベルギーとフランスへ赴き、日本代表を取材してきました 【島崎英純】

 ドイツ生活も約2カ月半が過ぎました。こちらの文化や生活様式、地元の方々のしぐさなども徐々につかめてきましたよ。日曜日にスーパーが開いていなくてひもじい思いをすることもなくなりましたし、少々の電車の遅れも気にならなくなりました。だって、街の人々は整然と何事もなかったかのように過ごしていますもん。

 でもね、この前、夜にベルリンからケルンへ移動しようとしたときに電車が遅れたのは焦りました。当初は19時発だったものが10分遅れ。その後、20、30分とディレイしていき、約1時間が経過しても来る気配がない。結局70分遅れで出発したんですけれども、これだとケルンの中央駅から僕が暮らしている街までの終電が間に合わない。

「これ、大丈夫なの?」という一般日本人の懸念などよそに、ドイツが誇る高速鉄道「ICE」は絶賛徐行運転を繰り返します。結局終電は間に合いませんでした、はい……。車掌から何やら遅延証明書の封筒みたいなのを「ほれっ」って感じで投げられたのですが、どうやらそれに詳細を記入すれば数パーセントの返金、じゃない、チケット割引が適用されるようです。さすがドイツ! そっち都合の遅延も、今後のチケットセールスにつなげます。

 仕方がないのでケルン中央駅から行けるところまで行き、その後は何十ユーロか払ってタクシーで帰宅しました。でも、こんなことでいちいちイラついていたら、こっちでは生活できないんです。この前なんて、バスが1時間遅延してようやくバス停に着いたと思ったら、すぐさま折り返すはずのバスの運転手さんが「俺は今、着いたばっかりで疲れてんの! すぐに発車できるわけねーだろ、このやろう!」(島崎の脳内再生です)ってな感じで乗客と大げんか。うわー……。こっちも少し怒っていたのに、運転手さんのあまりの剣幕になぜだかシュンとしちゃいました……。

日本代表の欧州遠征を取材してきました

 閑話休題。そんな寛容精神に満ち溢れるドイツから、今回は日本代表の欧州遠征を取材するためにベルギーとフランスへ赴きました。えっ? 話題が古い? これまで何度も申し上げてきた通り、本連載は時空が歪んでおりまして、常にリアルタイムから若干遅れて交信されております。平身低頭、お見知りおきいただきたく存じます。

 ドイツからベルギーやフランスは陸続き。当然飛行機での移動も可能ですが、空港までの道のりやチェックインなどの煩わしさを勘案すると電車移動の方が楽な場合もあります。そこで現在ケルン在住の僕も、アイントラハト・フランクフルト所属の長谷部誠キャプテンと同じくドイツの「ICE」、そしてフランスの高速鉄道「TGV」を乗り継いで向かうことに決めました。

 まずはフランスのリールですが、ケルンからはドイツ国境近くのアーヘンという街からベルギー領内へ入り、首都のブリュッセルへ向かいます。ただ僕、国境を跨いだのには気付きませんでした。ドイツ、ベルギー、フランスは共にEU(欧州連合)加盟国で入国審査などの手続きもありません。途中で車掌が入れ替わった気もするのですが、チケット改札はすでに終わらせているので、強面のオバサン車掌は僕らをスルー。なんだか拍子抜けです。車窓の景色もドイツとベルギーで何かが変わったようには感じないのですが、さすがにブリュッセルの街中に入ると景観の変化に気付きます。ドイツの町並みが歴史と革新が同居する現在進行形ならば、ベルギーは伝統を重んじながらも、今を耐え忍ぶ寂寥(せきりょう)感が漂っています。これがブリュッセル特有のものとは承知の上で、この後訪れるフランスとも比較して、僕はベルギーの置かれている現況を少しだけ感じ取ったのです。

 それでも元来楽観的な僕は、ブリュッセルからリールへ向かう「TGV」の乗り継ぎ時間を利用して街の観光へ繰り出しました。まずは、ここに来たら必ず見なければならない、「世界三大ガッカリ名所」のひとつである「小便小僧像」へ向かいます。あっ、ほら、多数の人垣に囲まれたちっちゃな像が「すみません……」ってな感じで頭を垂れています(垂れてないか……)。あれ、オジサンがいきなり像に登り始めていると思ったら、水道の蛇口からそのイチモツにホースをつなげています! オジサンが誇らしげに「ほれっ、出てるだろ」と胸を張りますが、周囲の観光客は特に感慨もなく各々記念写真を撮り合っています。用を足している姿を激撮されている小僧さまの心境はいかばかりなのでしょう。いたたまれなくなったので早々にその場を退散し、もうひとつの名物と言われる「小便少女像」は素通りして一念発起、フランス・リールへと向かいました。

どこまでも整然としていたリールの街

リールで日本でも有名なベーカリー「PAUL」を見つけました 【島崎英純】

 実は僕、フランスは初上陸です。リーグアンというトップリーグがあるのですが、なぜか縁がありませんでした。「シルブプレ(お願いします)」や「メルシーボク(ありがとう)」などという基本会話しか知らない僕にとっては未知の世界。実は日本でも高級フランス料理というものを食したことがないので、どこか斜に構えて見てしまう自分がいます。

 リール中心部の「リール・ヨーロッパ」駅に降り立つと、どんよりとした雨模様。いきなり出鼻を挫かれましたが、石畳の街路を自転車で過ぎ去る女性にうっとり。ロングコートの裾と首に巻いたカラフルなストールを軽やかになびかせる姿は、この街の瀟洒(しょうしゃ)な雰囲気にマッチしています。普段、紺色のヤッケ(ドイツ語でジャンパー、ジャケットのことです)を着て前傾姿勢でケイデンス(ペダルの回転率のこと)を上げている妙齢のドイツ人女性を目撃している僕としては、何もかもが新鮮です(偏見です)。

 日本でも有名なベーカリー「PAUL」も見つけましたよ。偉そうに言っていますが、僕は知りませんでした。同行者がこれみよがしに教えてくれたんです。

「超有名なんですよ。日本では行列らしいです。おいしいんですって」

 その彼、今はグルテンフリーの生活を続けています。小麦を摂らないなら当然パンも食べない。ならば、その自慢は何の役に立つのか。そもそも主食がパンの欧州諸国に、君は一体何をしに来たのか。さげすんだ一瞥(いちべつ)を向けながら、僕は「PAUL」のフランスパンを貪ります。

 ただ、この街で明日、サッカーの国際親善試合が開催されることは微塵も感じません。ひとつだけ街灯に掲げられている試合案内の看板を見ましたが、道行く人が視認する様子はなし。致し方ないですよね。明日11月10日は平日なのに試合開始は昼の13時。しかもそのマッチメークは南米のブラジルとアジアの日本ですから。さまざまな思惑が入り組んだ今一戦を象徴するリールの街はどこまでも整然で、日常の姿を僕らのもとにさらけ出していました。

 ブラジルvs.日本の試合結果は、皆さんご存知の通り1−3で日本の完敗に終わりました。選手個々の技術レベル、チーム全体の組織力の両面で凌駕(りょうが)された日本は、まだまだ精進を続けなければなりません。でも、遠きフランスの地で世界屈指のチームと対戦できた経験は大きなもの。そう言い聞かせて、次なる戦いの地であるベルギー・ブルージュへ向かいます。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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