チーム一丸でやるべきことをやる 稲葉ジャパン初勝利に見た野球の原点

中島大輔

逆転勝利の裏にあった機動力

「アジア プロ野球チャンピオンシップ」開幕戦となった日本vs.韓国は、日本が延長10回の激闘の末に、8対7とサヨナラ勝ち。稲葉新監督が初陣を飾った 【写真は共同】

 時計の針が深夜12時を回ってから東京ドームを後にする直前、野球日本代表(侍ジャパン)の清水雅治外野守備・走塁コーチがつぶやいた。

「もう1回、野球の原点に帰っているような気がします」

 延長10回、4時間29分に及ぶ激闘は、タイブレークでようやく決着がついた。8対7で逆転勝利。「アジア プロ野球チャンピオンシップ」開幕戦となった日本vs.韓国には3万2815人の観衆が詰めかけ、ライバル対決に相応しい激闘が繰り広げられた。

 試合のポイントを挙げれば、枚挙にいとまがない。ヒーローになったのは、3点を追いかける10回に同点3ランを放った上林誠知(福岡ソフトバンク)であり、サヨナラ二塁打を放った田村龍弘(千葉ロッテ)だ。試合後の会見に呼ばれたのは、3点を追いかける6回にツーランを放った4番・山川穂高(埼玉西武)だった。

 ただし、11安打8得点の攻撃の裏にあった機動力を見逃すことはできない。3回、相手の送球ミスによる先制点を呼び込んだのは、一塁走者・源田壮亮(西武)のそつのない走塁だった。2回1死、一塁走者の上林は外崎修汰(西武)の初球で二盗を仕掛けてアウトになったが、清水コーチは「タイミング的によく見たら、僕の中ではセーフだった」と振り返る。

 そして延長10回、田村がサヨナラ二塁打を放つ直前、ライト前安打を放った西川龍馬(広島)は二盗を成功させ、決勝のホームに生還した。

「最後の西川の盗塁とか、あのプレッシャーのかけ方は文句ないですもんね。(上林も含めた)積極走塁が、結局勝ちに結びついたと思います。やるべきことをちゃんとやってくれているのは、感謝しかないです」(清水コーチ)

稲葉監督初采配で注目された打順

「4番・山川の後の5番が大事」と起用された上林が延長10回に起死回生の同点3ランを放った 【写真は共同】

 先制した直後の4回に4点を奪われ、苦しい展開となった。9回裏に1点差を追いついたものの、直後の延長10回に3点を勝ち越される。

 外崎が「セレモニーから(日韓戦の)実感を覚えて、ちょっとずつ緊張していった」と語ったように、選手たちは独特のプレッシャーを感じていた。しかし、重圧は序盤こそ重くのしかかったものの、中盤以降は力に変えられていく。野手最年長でムードメーカーでもある山川は、試合をこう振り返った。

「心の底から楽しんでやっているからこそ、声が出ていると思います。全員、喉が枯れるくらい声を出していると思うので。それはやれと言われてできることではないと思うので、最高でした」

 指揮官として初めてタクトを振った公式戦について、稲葉監督はこう話した。

「日の丸を背負う重みを感じないといけないですけど、U−24という若い世代はそれがプレッシャーになりすぎず、楽しそうに試合をしているのを見て羨ましくも思います。でも、僕はそうではいけないという思いで、この1試合をすごしました」

 東京五輪での金メダル獲得を目標に掲げる稲葉ジャパンにとって、今大会は強化の道のりの一歩目にあたる。U−24という年齢制限が設けられた今大会で、もっとも視線を浴びるのは稲葉監督の采配面だ。とりわけ初戦ではどんな打順を組んでくるかが注目され、指揮官自身がカギとしたのは1、2番と5番だった。

「(4番の)山川選手の後は僕の中で非常に大事にしている打順です。(2番の)源田選手の調子があまり上がってこない中で、近藤(健介/北海道日本ハム)選手をつなぎ役として3番に置いた方が打線として組めるんじゃないか。また山川選手の後、上林選手は調子が良く、しっかりつなぎもできますし、送りバントもできます。そこから6番の外崎選手から後につないでいった方がいいんじゃないかなということで、このオーダーを組みました」

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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