義足の史上最速女王が感じた東京の可能性 「きっと成功する」と確信したその訳は?

吉田直人

来日して感じた東京の熱や期待

インタビューの前に行われたトークイベントでも東京大会の開催が楽しみだと話をしていた(ファン・ラインは左から3人目) 【スポーツナビ】

――ところで、義足も含めてパラスポーツは、人間の可能性を追究する舞台でもあると思います。ファン・ライン選手はパラスポーツの可能性をどのように捉えていますか?

 パラリンピックは(1948年の)ロンドン大会から始まって間もない競技です()。つまりこれからまだ可能性があるということ。最近、ようやく人々のパラリンピックへの関心が高まってきましたが、パラリンピックとオリンピックが同じようなスタンスで迎え入れられるのが2020年の東京だと思っています。一部の国だけではなく、世界中の子供たち、世界中の選手たちが参加できる環境も必要ですし、そこにチャンスがある、可能性があるということに、多くの子供たちが気付いてほしい。皆がパラリンピックを、オリンピックと同じように楽しみにしている。その文化を広げるポテンシャルのある東京大会は、12年のロンドンパラリンピックに次ぐ“第2のステップ”になるのではないかと感じています。

※編集注:パラリンピックの前身となるストーク・マンデヴィル大会は1948年のロンドン五輪に合わせて初開催された。その後、64年の東京大会で「パラリンピック」という名称が用いられ、2012年のロンドン大会では満員の大観衆が声援を送った。

――前回(1964年)の東京大会で初めて「パラリンピック」という名称が使われました。再び舞台となる東京という地に向けての期待はありますか?

 まず、本当に楽しみ! (2012年の)ロンドンでパラリンピックの認知度が(世界中で)向上しました。リオでは「もっと人が入ってくれたらな……」とちょっと難しさも感じましたが、閉会式で、次回開催地として東京のプレゼンテーションを見た瞬間に、「東京大会はきっと成功する。とてもプロフェッショナルな大会にしてくれるはず」と興奮しました。今回、日本に来て、関係者と顔を合わせたり、子どもたちと触れ合ったりする中で、大会に向けての熱や期待を強く感じたんです。皆が期待するからこそ、自分も期待して楽しみに待ちたいと思います。

走ることに魅了された最速女王

走ることに純粋な最速女王の快進撃が続く 【Getty Images】

――パラスポーツは健常スポーツ以上に家族の支えが必要な競技だと思います。あなたにとってご家族はどのような存在ですか?

 東京に向けて、もちろん家族一丸となって取り組んでいます。家族が自分の後ろにいつも居てくれて、とても大きい存在。自分が興奮しすぎたときにも「ちょっとちょっと(興奮しすぎよ)!」と抑えてくれたり、緊張しすぎていたら温かく支えてくれたり。競技は自分1人ではできないし、できてもきっとつまらない。家族には東京に向けて、良いサポートをしてもらっています。それから、私の場合は彼(車いす陸上のステファン・ルス)も同じアスリートとして東京に向かって力を注いでいて、彼とも一緒に歩んでいきたいと思っています。

――ファン・ライン選手にとって“走ること”あるいは“陸上”とは?

 私にとってはある意味、中毒性のあるものです(笑)。走ることが一つの楽しみになっているんです。トラックで走れば走るほど、「もっと速く走りたい!」と思う。走り続ければ、スピードも上がる。その関係性がとにかく楽しくて。それが頑張れる動機でもありますね。

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 競技を始めて7年。ファン・ラインは常に“強さ”と“速さ”を追求してきた。課題はスタートだというが、コーチの下で改善に励む。他方で「私はオランダ人なので、とにかくまっすぐ。弱みや嫌なことは気にせず先に進む」と笑う。200メートルを中心に快進撃を続ける彼女にストップをかけるのはどの選手だろうか。

 最後に、2020年に向けて、世界のライバルへのひと言を聞くと、

「Good Luck!」

 と、おどけながら答えた。ファイティングポーズとも、余裕しゃくしゃくとも取れるその言葉から、純粋に競技を楽しむ姿勢が見て取れる。

 マールー・ファン・ライン。史上最速の「ブレード女王」は、鍛錬を重ね、一直線に東京へと向かう。
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著者プロフィール

1989年千葉県生まれ。大学時代は学内のスポーツ機関紙記者として、箱根駅伝やインターカレッジを始め各競技を取材。2016年、勤務先の広告代理店を退職後、フリーランスライターとしてスポーツを中心に取材を行っている。

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