今最も行くべき国キューバを代表するロードレース それがハバナマラソン!

南井正弘

この国の人はとにかく笑顔が素晴らしい

ハバナマラソン前日のキューバマラソンはあくまでファンラン。ゼッケンはモノクロコピーで、地元ランナーは楽しむことが優先で、走ったり歩いたり止まったりを繰り返す。彼女たちの足元もキャンバススニーカーだ。 【写真:小菅亮輔】

 翌日からはハバナ市内を走りまくる。これはハバナに限らないが、自動車や自転車でなく自分の脚で街を走るとホテルと観光名所を始めとした各施設との位置関係を理解できたり、庶民の生活を垣間見ることができて、美味そうな食堂なども発見することができる。この国の人は子供や老人を筆頭にとにかく笑顔が素晴らしい。社会主義国ということもあり、最低限の生活は保障されており、医療費や教育費の負担もほとんどない。そんなお国ぶりがあの笑顔を生むのかしれない。自由経済との接触が増えることによって、確実に貧富の格差が生じるだろうが、そのときにあの笑顔は残っているのだろうか。その点が少し心配だ。

 昼食を終えてプールでリラックスしたあとにゼッケンの引換所へと向かう。ゼッケン引換は地元ランナーと海外からのランナーでは場所が異なり、地元ランナーが旧市街のキッドチョコレートというスポーツ施設なのに対し、海外からのランナーは新市街ベダード地区のメリア コヒーバホテル。旧市街に滞在していた私たちはココタクシーと呼ばれるヤシの実型の三輪タクシーで向かう。ピックアップ場所はエクスポではなく純粋なゼッケン引換所で、ゼッケンのほかにコミカルなイラストがプリントされたアディダス製の参加Tシャツとポスターを受け取った。

 そしてハバナマラソン前日の土曜日にはキューバマラソンという誰もが参加可能な5kmレースが開催され、地元のランナーと海外からのランナーのよき交流の場となっていた。地元ランナーのなかにはキャンバススニーカーやカジュアルサンダルで走る参加者も少なくなく、それでいて天性のバネを如何なく発揮し、物凄いスピードで自分たちを追い抜いて行った。と思ったら300mくらいしてもう歩いている。純粋なレースというよりもファンランイベントである5kmレースということだったが、ゴールしたときに直感で「短いんじゃないの?」と思い、手元のスントのGPSウォッチに目をやると3.18km。こういう大雑把なところは細かいことは気にしない国民性を象徴していた。

キューバマラソンに参加した少年たち。この国の人々の笑顔は本当に素晴らしい。 【写真:小菅亮輔】

美しいマレコンを走るだけでも参加する価値がある

 日曜日の早朝を迎え、いよいよハバナマラソンのスタートが近づく。まだ暗いうちからスタートエリアである旧国会議事堂の前に続々とランナーが集まってくる。前日のキューバマラソンでも思ったが、本当に数多くの国からランナーがやって来ていることを確認できる。アジア人も少ないながらも確認でき、青天白日滿地紅旗と呼ばれる国旗をモチーフにしたウェアを着た台湾人の男性ランナーはかなり目立っていた。

 午前7時エリートランナーを先頭に号砲一発スタート。旧市街をしばらく走るとマレコンと呼ばれる海岸沿いの美しい通りをしばらく走る。太陽が顔を出して徐々に明るくなるなかマレコンを走るのは最高。ここを走るだけでもハバナマラソンに参加する価値があるといっても過言ではない。前方に新市街のホテル・ナシオナル・デ・クーバを始めとした街並みが見えるのもとてもキレイで印象的。所々で波が防波堤を越えてマレコンを濡らしていた。

 最初の給水所で水を取ろうとすると、驚くことに紙コップで渡されるのではなく、ビニール袋に密封された水のパックを手渡してくれる。最初は面食らったが、このほうが飲みやすく、受け取ってしばらくしてから首筋や頭からかけて身体を冷やすのにもピッタリ。「日本のレースでもこの方式を採用すればいいのに!」と思った。

ハバナマラソンに参加するならハーフマラソンが絶対にオススメ

あたりが暗いうちからランナーが続々とスタートエリアに集まってくる。 【写真:小菅亮輔】

 マレコンを終え新市街に入ってしばらくするとアップダウンの連続。事前の情報ではフラットなコースということだったので、これにはちょっと閉口した。さらに時間が経過するとともに南国特有の強い日差しが体力を奪っていった。新市街は日差しを遮ってくれる建物が少ないエリアを結構走るから、長い時間直射日光を受けることになる。帽子やサングラスは必携だ。

 計画的に建築物が配された新市街もフィデル・カストロが定期的に演説を行い、このレースの一週間ほど後に彼の死を悼む民衆が100万人以上集まったという革命広場を過ぎてしばらくすると、昔ながらの建物が並ぶ旧市街に戻る。このあたりは地元の人々の応援も熱狂的で、彼らの声援、そして建物で日差しが遮られていることもあってちょっぴり涼しく、さっきまでの疲れがウソのように元気になる。

 左前方に旧国会議事堂が見えたら筆者がエントリーしたハーフマラソンのゴールはすぐそこだ。物凄い数の観衆が一斉にランナーに声援を送ってくれる。その声援が後押しとなって持てる力を振り絞ってラストスパートしてゴール。写真を撮りながらのファンランだったが、ネットタイムで2時間10分33秒。このタイムでも日本人1位であった。ちなみにフルマラソンは同じコースを2周するだけなので、ハバナマラソンに参加するならハーフマラソンが絶対にオススメ。10kmレースもあるが、それだとハバナの見どころを充分に網羅していない。

参加賞Tシャツを着たノルウェーから来たランナー。 【写真:小菅亮輔】

スタートエリアでも一際目立っていたスペインの美人ランナー。 【写真:小菅亮輔】

インドから参加したランナー。この大会はキューバに魅せられた世界各国からのランナーが集結していた。 【写真:小菅亮輔】

物資不足もあり、前日のキューバマラソンと同様にキャンバスシューズで参加するランナーが多かった。 【写真:小菅亮輔】

海岸沿いのマレコンを走れるのもこのレースの大きな魅力。遠くに新市街のビル群が見える。 【写真:小菅亮輔】

波が防波堤を越えてマレコンが濡れている箇所はスリップに注意が必要! 【写真:小菅亮輔】

水はこんな感じでビニールパックに入っている。最初は慣れなかったが、慣れるとこのほうが飲みやすいし、カラダを冷やすのにも便利だった。 【写真:小菅亮輔】

スタートから時間が経過するとグングン気温が上昇したので、新市街にあったこのシャワー設備は有難かった。ミストシャワーでないところがキューバっぽい。 【写真:小菅亮輔】

アジアからのランナーは少数派。台湾の国旗をモチーフにしたシャツを着た彼はスタートエリアでも特に目立っていた。 【写真:小菅亮輔】

キューバの国民的英雄であるホセ・マルティを讃えるホセ・マルティ・メモリアルをバックに走るランナーたち。ここを過ぎるとゴールのある旧市街まではさほど遠くない。 【写真:小菅亮輔】

完走メダルは参加賞Tシャツと共通のコミカルなイラストを採用。個人的には旧市街のクラシカルな街並みをフィーチャーしたメダルを期待していたのだが……。 【写真:小菅亮輔】

ゴール後に薄暗い建物に案内され、そこで給水所の水と同じビニールパック入りジュースと完走メダルを受け取る。メダルは参加Tシャツと同じイラストが配されたポップな印象のメダル。個人的にはクラシカルな街並みをモチーフにしたメダルを期待したが、これはこれでありだと思う。メダルを受け取り、建物の外に出ると、しきりにローカルのランナーや地元の少年たちが頭や足元を指して自分を含む海外からのランナーに何か言っている。知っているスペイン語のボキャブラリーはわずかだが、しばらくすると「靴をちょうだい! ダメなら帽子でもいいからさ!」と言っていることが理解できた。かなりしつこいので、根負けして渡しているヨーロッパからのランナーもチラホラ。自分は一人に渡すことは、それはそれで不公平になると思い、プレゼントすることは止めておいた。

今年ハバナマラソンを走るランナーのみなさんへ

 筆者はこれまでニューヨークシティマラソンを始めとして34回の海外ロードレースに参加しているが、ハバナマラソンはレースの運営面などで若干の課題はあるものの、そのコースレイアウト、地元の人々の応援、ビフォア&アフターのアクティビティといった部分を含めた総合点ではかなり上位に評価できる。今年のエントリーも考えたものの、諸々のスケジュールの関係でそれは叶わなかったが、近い将来再び走ってみたいと思えるロードレースである。そのときもコースが変わらない限りはハーフマラソンにエントリーするつもりだ。

 最後に今年ハバナマラソンを走るランナーのみなさんに「ハバナマラソンを楽しむと同時にキューバという国も堪能してください。そのためにはまずキューバの人々と交流してください!」というメッセージを残したいと思う。

(写真:小菅亮輔)

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著者プロフィール

フリージャーナリスト。1966年愛知県西尾市生まれ。スポーツブランドのプロダクト担当として10年勤務後、ライターに転身。スポーツシューズ、スポーツアパレル、ドレスシューズを得意分野とし、『フイナム』『日経トレンディネット』『グッズプレス』『モノマガジン』をはじめとしたウェブ媒体、雑誌で執筆活動を行う。ほぼ毎日のランニングを欠かさず、ランニングギアに特化したムック『Runners Pulse』の編集長も務める

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