世界一に輝いたアストロズの明るい未来 第7戦の勝利が栄光へのスタート

杉浦大介

球団史上初のワールドシリーズ制覇を決めてマウンドに集まるアストロズの選手たち 【Photo by Harry How/Getty Images】

“Best 2 words in sports:Game 7”(「第7戦」以上に素敵な言葉はない)――

 MLBに限らず、アメリカンスポーツの舞台ではそんな風に言われることがある。1プレーごとの重要度、注目度が増し、必然的に人々を惹きつける最終決戦。現地時間11月1日、ロサンゼルスで行われた2017年のワールドシリーズ第7戦でもまた新たなドラマが生まれた。

チーム創設56年目にして初の世界一

 伝統のドジャー・スタジアムに5万4124人を集めた究極の一戦で、勝ち残ったのはアストロズ。選手、ファンだけでなく、メディア、関係者まで、誰もが身も凍るような緊張感を感じているように見えた中で、ヒューストンのタレント集団は実にのびのびとしたプレーを見せてくれた。

 初回にジョージ・スプリンガーの二塁打をきっかけに2点を先制すると、2回表にこの切り込み隊長が今度は左中間へ2ラン本塁打。ドジャースの先発ダルビッシュ有をKOした一発で、ア・リーグ王者は完全に主導権を握った。

 守っては5人の投手を丁寧につなぎ、ドジャースに付け入る隙を与えなかった。決戦ムードに盛り上がったドジャー・スタジアムは、イニングが進むにつれて沈黙していく。結局、アストロズは5対1で精彩がなかったドジャースを振り切り、今年度最後のゲームを制したのだった。

「信じられないよ。ここに辿り着くまでには多くのことがうまくいかなければいけないが、僕たちはお互いを信じ続けたんだ」

 第7戦までなんと4試合連続、シリーズ通算で5本塁打を放ってMVPを獲得したスプリンガーはそう語って喜びを爆発させた。仲間たちと信頼し合った結果、アストロズは今プレーオフではボストン(レッドソックス)、ニューヨーク(ヤンキース)、ロサンゼルスというメジャーを代表する3大名門チームをすべて撃破したことになる。だとすれば、誰にも文句は言わせない。ホセ・アルテューベ、カルロス・コレア、スプリンガーという生え抜きの三銃士を起爆剤にしたアストロズは、ほとんど絵に描いたような形で、1962年の創設から56年目にして初の世界一へ駆け上がったのだった。

両チームの大黒柱が支配力を発揮できず

 ここに至るまで、47年ぶりというシーズン中に100勝以上を挙げたチーム同士の対戦は球史に刻まれる激闘になった。

 最初の6試合中5戦が2点差以内という接戦の連続。第3戦ではダルビッシュに対するユリエスキ・グリエルの人種差別行動が取り沙汰され、グリエルは来季開幕から5試合出場停止処分を受けたことが大きな話題になった。また、シーズン中とは違う滑りやすいボールを使っているという疑惑まで噴出するなど、さまざまなストーリーラインが混濁しながらシリーズは進んだ感がある。

 クレイトン・カーショー(ドジャース)、ダルビッシュ、ジャスティン・バーランダー(アストロズ)、ダラス・カイケル(アストロズ)という両軍の左右エースが計8度も先発しながら、合わせて1勝4敗。4人の中に防御率3.75未満の投手はゼロ。大黒柱たちが支配力を発揮できなかったのは、スライダーが投げ難いとされたボールの違いがゆえだったのか。

 その答えはどうあれ、特にダルビッシュの驚くばかりの不調はドジャースに暗い影を落とした。第3、7戦で2敗を喫したダルビッシュは、その両登板で2イニングも持たず、シリーズ通算防御率はまさかの21.60。スライダーの制球がまるで定まらず、背番号21はアウトピッチ(決め球)を失った。

「チームが勝てるような投球がしたかった……」

 試合後、31歳の右腕は目を赤く染めてうなだれた。お膳立てが整った中での2度に渡る背信投球は、残念ながら、本人、ドジャースにしばらく重くのしかかりそうである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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