平野美宇、W杯連覇ならず 封じられた「超攻撃」スタイルの行方

ラリーズ

準決勝を落とした平野は3位決定戦でも敗れ、メダルを逃した 【写真は共同】

 卓球女子ワールドカップ(カナダ・マーカム/以下、W杯)が現地時間29日、3日間の全日程を終了した。

 昨年のワールドカップで史上最年少優勝を果たした17歳の平野美宇(JOCエリートアカデミー/大原学園・世界ランク6位)は連覇を狙ったが、準決勝で中国の劉詩文(同4位)にゲームカウント0−4で完敗。3位決定戦でも鄭怡静(チャイニーズ・タイペイ・同10位)に2−4で敗れ、メダルを逃した。決勝は中国勢同士の戦いとなり、朱雨玲(同2位)が劉詩文を4−3で下し優勝。石川佳純(全農・同5位)は決勝トーナメント初戦で李皓晴(香港・同42位)に逆転負けを喫した。

中国が講じた2つの平野対策

徹底した対策により、世界を驚かせた平野の超攻撃卓球は威力を失っている 【写真は共同】

 平野はリオデジャネイロ五輪の代表落ちを機に、粘り強くラリーを続け相手のミスを待つ安定重視のスタイルから、ほぼ全てのボールを強打する超攻撃卓球へとプレースタイルを進化させた。このスタイル転換が功を奏し、今年4月に中国選手を3連破してアジアチャンピオンとなり、世界を驚嘆させた。

 しかしながらその後の世界選手権、アジアカップ、そして今回のワールドカップと中国勢の徹底した平野対策に苦しめられている。

 中国の平野対策のポイントは2つある。「チキータ封じ」と「カウンター封じ」である。

 チキータとは、台上の低く短いボールを手首をひねるようにバックハンドで打つことで強烈なスピンをかけて攻撃する技術だ。中国勢は「平野のフォア側に短くバックスピンの強烈にかかったサーブ」と「平野のバック側にスピードのある長いサーブ」を織り混ぜることで徹底的にチキータを封じた。

 短く切れたサーブは無理にチキータをしてもスピードが出ずに狙われてしまい、短いサーブの処理で迷っている中で長く速いサーブが来ると、焦って強打してもどうしてもミスが出てしまう。実際に本大会準決勝の劉詩文戦ではこの2つを多用され、平野のチキータレシーブは影を潜めた。

 加えて中国勢は「カウンター封じ」として、ラリー中にあえてスピードが遅く山なりのボールを混ぜることで、平野のカウンターの威力を半減させて次のボールを狙う戦術を多用している。

求められる「ゲリラ戦術」からの進化

世界の頂点に立つには、さらなる進化が求められる 【写真は共同】

 平野もこのワールドカップではチキータ以外のレシーブのバリエーションを増やしたり、カウンターの精度を上げるためラリー中により厳しいコースを狙うなど、プレーに進化が見られた。しかし全体的に強打のミスが目立ったり、3位決定戦で対戦した鄭には台から下がった位置で余裕を持って粘られるなど、課題を残す形となった。

 平野のカウンターを中心とした現在のプレースタイルは、パワー不足を補うための特効薬としては有効であったが、進化の早い世界のトップ選手には早くも対策を講じられた。

 今後、平野が世界の頂点に立つためには、両ハンドドライブの威力と安定性の両立が必須だ。今大会で決勝を争った劉と朱は、平野ほどの派手なプレーは少ないものの、強烈なスピンをかけた繋ぎのドライブと一発で決めるパワードライブのミスが極端に少ない。決勝に至るまで2人が失ったゲームは劉が0、朱もわずか2と盤石の強さを見せた。

 世界のトップが一堂に会する年内の国際大会は、12月14日開幕のITTFグランドツアープロツアーファイナル(カザフスタン・アスタナ)を残すのみ。平野は極端に言えば、チキータやカウンターを中心とした「奇をてらったゲリラ戦術」から、「正統派プレーヤー」への進化が求められる。

文・座間辰弘(ラリーズ編集部)
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