神懸り武豊、大雨不良で驚愕イン突き! キタサン“ワープ”で天皇賞春・秋連覇

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リスク上等「外に行くつもりはなかった」

大雨も不良馬場も関係なし! 力強いステップでターフの王者に返り咲き 【写真:中原義史】

 ここで武豊が取った驚きの選択が、終始内ラチ沿いのインを突くということだった。もし時間があるのなら、ぜひJRAの公式サイトでこの日の東京で行われた天皇賞・秋とそれ以外の芝レースをパトロールビデオで見ていただきたいのだが、馬場の内側のコンディションが悪すぎるため、どのレースを見ても各馬はコースの五分どころ――つまり真ん中から外へと進路を取っているはずだ。ボコボコに荒れ果てた馬場を通るくらいなら、多少の距離損があってもまだ荒れていない、走りやすいアウトコースを走るというのは当然のことだろう。それでもインを突くというのは、一発を狙った穴馬がイチかバチかで仕掛ける奇襲のようなものだ。それを、1番人気馬に乗る武豊があえてインにこだわったのだ。

「今日は特殊な芝の状態でしたが、返し馬で走り方をチェックするように乗ってみたところ、普通の馬とは違う体の強さがある馬ですし、これならこの馬場でもこなせるなと思いました。それに、枠順(4枠7番)が良かったですし、各馬が内に殺到しない状態の馬場でしたから、他の馬がどこを通るかまでは分かりませんでしたが、外に行くつもりはありませんでした。リスクはありましたが、思い切って行きました」

会心のレースで勝利し、武豊もファンに向けてガッツポーズ 【写真:中原義史】

 向こう正面では後ろから数えた方が早いくらいの後方ポジションだったのに、3コーナー、4コーナーと誰もいない最内の経済コースを通ってスルスルと順位をアップしていくと、直線入り口ではいつの間にか2番手で姿を現し、先頭まで早くも射程圏。まるでキタサンブラックがワープしたかのような錯覚にも陥る……そんな勝負どころの攻防だった。

 こうなると、あとはいつものように前を捕まえて、返す刀で後続をねじ伏せるだけ。「思ったよりも早く抜け出してしまったことで、馬が気を抜いてしまった」と、最後はサトノクラウンに詰め寄られたが、「後ろから来ればまた伸びてくれるタイプ。押し切ってくれると思っていました」と武豊。その言葉通り、ゴール前でもうひとふん張りを見せ、宝塚記念の借りを返す劇的な勝利とともに、ターフの主役へと見事に返り咲いた。

残り2戦「引き際の美しさを」

大雨の中でもファンは武豊とキタサンブラックのパフォーマンスに酔いしれたのではないか 【写真:中原義史】

「ポジションどうこうではなく、リズム良く走ることができれば強い馬。今日はそれができたと思います」

 武豊の言葉を隣で聞き、大きくうなずいた北島オーナーは改めて、キタサンブラックとの出会いに感謝の言葉を贈った。

「何も言うことはないです。武豊さん、清水調教師、厩舎の皆さんに本当に感謝です。そしてキタサンブラックはデビューしてからこんなに頑張ってくれて、素晴らしい成績を残してくれて、いっぱい夢をくださって、ファンの皆さんからもたくさん『おめでとう!』と言っていただけた。自分の体調が本調子じゃないときにブラックがこんなに走ってくれて、まるで神様からの贈り物のようです」

(左から)清水久詞調教師、北島オーナー、武豊。残り2戦でもこの光景が見られるか 【写真:中原義史】

 そして、キタサンブラックのレースはジャパンカップ、有馬記念の2戦を残すのみとなった。北島オーナーが続けた。

「今年いっぱいで現役を終えるのは本当は寂しいです。でも、引き際の美しさを大事にしたい。かっこいいままで引退させてあげたい。ジャパンカップ、有馬記念と、着は別にいいんです……いや、もちろん1着で来てほしいですが(笑)、無事に走り終えて、生まれ故郷に帰れるようにしたいですね」

 武豊としてもこの思いを受けてさらに気合が入ったか、北島オーナーの期待に応えるべく、そして、希代の名馬へと成長した愛馬の有終の美を飾るべく、残り2戦の全勝を誓った。

「ラスト3戦と聞いてから挑んだレースだったので、まずはホッとしています。これだけの馬ですから、残り2戦をいい形で、勝って終わりたいですね」

次はJC、レイデオロと初対決

順調ならば次はJC、ダービー馬・レイデオロとの初対決も楽しみ 【写真:中原義史】

 不可解な宝塚記念の敗戦から4カ月。清水久調教師の言葉を借りれば「本当のキタサンブラックはもっと強い!」という姿を改めて知らしめた秋の盾は、“引退ロード”の開幕を飾るにふさわしい満点の船出だった。

 次は連覇を狙うジャパンカップ(11月26日、東京競馬場2400メートル芝)。毎回キタサンブラックのハイレベルな強さには驚かされるのだけど、今度はどんな走りで、そしてどんな騎乗で驚かせてくれるのだろうか。残り2戦を考えると、もちろん寂しい。しかし、今年のダービー馬・レイデオロとの初対決も含めて、寂しさ以上に楽しみと期待感であふれているのも、また確かだ。

(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)

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