ドイツのトレンド、若手監督が増えた理由 DFBが取り組んだ指導者の育成改革
30歳のナーゲルスマンがバイエルンの新指揮官候補に
30歳のナーゲルスマンがバイエルンの新指揮官候補に挙がった 【写真:ロイター/アフロ】
9月28日に発表されたカルロ・アンチェロッティの解任を受け、ドイツの大手メディアはこの空位を埋める人材として、2人の名前を報じた。1人は、トーマス・トゥヘル。難しい個性の持ち主かもしれないが、ドルトムントの監督として一定の成果を収めたと言える人物だ。カール=ハインツ・ルンメニゲCEOのお気に入りであるとも言われている。
もう1人は、ユリアン・ナーゲルスマンだった。ホッフェンハイムを降格の危機から救い、さらにはチャンピオンズリーグ予選まで導いた天才だ。しかも、まだ30歳という青年監督で、こちらはウリ・ヘーネス会長のファーストチョイスであると伝えられる。
結局、バイエルンが選んだのはユップ・ハインケスだった。この選択は、バイエルンの2人のボスの間に平穏をもたらすとともに、来夏まで再考する時間を生み出した。ミュンヘンで長く指揮を執るのは、誰になるのか。少なくとも、ハインケスではないことだけは決まっている。
バイエルンのようなクラブを任せられるのは、ナーゲルスマンのごとき若造には早すぎるという声は少なくない。フランク・リベリーやアリエン・ロッベンのようなスター選手たちを、こんな若造がどう扱うんだ? というのが、その根拠の大部分を占めている。
一方、こんな声もある。ナーゲルスマンこそはドイツの指導者の未来である、と。バイエルンの新たな成功に満ちた世代を築き上げるのに適した人物であるし、ロッベンとリベリーが絶頂だった日々が終わった後、次の栄光の日々をもたらすのは、こうした若者であると声をあげるのだ。
1部で指揮を執る40歳以下の監督は6人
現在1部で指揮を執る40歳以下の監督はマインツのシュバルツ(左)ら6人 【Getty Images】
現在、ブンデスリーガ1部で指揮を執る40歳以下の監督は6人いる。前述のナーゲルスマン(30歳。ホッフェンハイム監督)、ドメニコ・テデスコ(32歳。シャルケ監督)、ハネス・ボルフ(36歳。シュツットガルト監督)、マヌエル・バウム(38歳。アウクスブルク監督)、アレクサンダー・ヌリ(38歳。ブレーメン監督)、サンドロ・シュバルツ(39歳。マインツ監督)という面々である。
「ブンデスリーガで監督になることが、簡単になったことなどありはしない」とアルミン・フェーは言う。現在56歳になる同氏は、2007年にシュツットガルトでタイトルを獲得したが、16年3月を最後に、ブンデスリーガのベンチには座っていない。クラブはすでに名を知られた元監督よりも、新顔を求めるようになっている。経験豊富で成功をつかんできた他の多く指導者と同様に、フェーはそう感じているという。
そう言うフェーもまた、29歳にして指導者としてのキャリアを歩み始めた。「でも、1部リーグで指揮を執るチャンスを得るまでに、私はリーグを3度制して昇格をつかむ必要があったんだ」とフェーは語る。
「今日では、チームを3部から降格させてしまっても、1部リーグで職を得られることさえある」。フェーが指しているのは、マインツが招へいしたシュバルツのことだ。シュバルツはリザーブチームを4部リーグに降格させたにもかかわらず、トップチームを預かることになった。これは史上初の事例であった。
トレンドをつくり出したマインツ
若き日のクロップを監督に抜てきするなど、マインツは若い世代を起用してきた実績がある(写真は08年) 【写真:アフロ】
DFとしてプレーしていたユルゲン・クロップがマインツの選手兼監督となったのは、33歳のときだった。すると、その後数年で現代的戦術に基づいたハイプレス(ゲーゲンプレッシング)をドイツサッカー界に提示し、世界最高峰の一つであるリーグにおいてもマインツのような小クラブが立場を確立することは可能であると証明した。さらにはドルトムントを率いて、バイエルンの1強支配にくさびを打ち込み、タイトルをもぎ取った。
マインツはさらに、「ポスト・クロップ」時代においても勇気ある決断力を示した。新監督に、ユースチームを率いていたトゥヘルを指名したのだ。ただし、彼はクロップの退任の直後から監督に就任したわけではない。クロップの後を継いだのはヨルン・アンデルセンであり、マインツを1部リーグに復帰させたのだが、その新シーズンが開幕する直前に解任されていた。こうして誕生した当時36歳の新指揮官は、そのモダンなサッカー観で強い印象を与えるとともに、その後数年のブンデスリーガで成功を収めることとなる。