Wシリーズ前日のダルビッシュと前田 それぞれの思いと共通の目標

丹羽政善

ワールドシリーズを前に、会見で笑顔を見せるダルビッシュ 【写真は共同】

 ワールドシリーズを翌日に控えた23日(日本時間24日)、ロサンゼルスは35度を超える季節外れの暑さ。フィールドに出ると、熱波が頬を撫でる。

 午後1時半過ぎ、そんな暑さの中で、通訳を伴ってレフトの芝の上でキャッチボールを始めたダルビッシュ有は、まだ誰もいないフィールドで一人汗をかいた。慌ただしい中でも、普段のルーティンを変えないところに、彼らしさがのぞく。

 そのあと、午後3時からは、ドジャー・スタジアムのネット裏にある「ダグアウト・クラブ」というVIP用レストランで、ワールドシリーズ恒例の前日会見が行われた。選手一人一人が指定されたテーブルへと向かい、前田健太と一緒に姿を見せたダルビッシュが席につくと、カメラのシャッター音が鳴り響いている。

「ヒューストンとやりたいと思ってました」

 いよいよ、ワールドシリーズが明日開幕――。メディアの数も、リーグ優勝決定シリーズの倍以上に膨れ上がったが、第3戦に先発予定のダルビッシュからは特別な緊張感がうかがえない。

「客観的に見たら、すごいなぁと思ってますけど、自分がここにいるってなると、特にそういうのはないです」

 過去のワールドシリーズをたどっても、興奮した記憶がないと言う。

「何がワールドシリーズなのか、あまり興味を持って見てなかったので」

 メジャーそのものにも興味がなかったことは、よく知られているところだ。

「そもそもメジャーに来たくて来たわけじゃない。来なきゃいけない状態になったというのが正確なので、最初に来たときは、どのチームがどの地区かっていうのも知らなかった。(自分がワールドシリーズで投げることをイメージしたことも)なかった」

 ただ、これだけの大舞台。どうせなら「ヒューストンとやりたかった」とダルビッシュは話し、そうなることをア・リーグの優勝決定戦でアストロズが2勝3敗と劣勢になった段階で予想していたそうだ。

「ヤンキースが5戦目に勝ったときも、(通訳の)佐藤さんにはヒューストンが来るって言ってたんで。100%来るとは思ってましたし、ヒューストンとはずっとやりたいと思ってました」

 対戦を熱望した背景には、レンジャーズ時代のライバル関係がある。

「ずっとしのぎを削ってきたので」

 アストロズが2013年にア・リーグ西地区に移ってからは、同地区のライバルとなった。ここ3年は、レンジャーズ(15、16年)とアストロズ(17年)で地区優勝を分け合っている。何より、ホセ・アルテューベ、ジョージ・スプリンガー、カルロス・コレアら、さまざまなタイプの打者がそろい、一筋縄ではいかないことを肌で知る。

「(相手打線の長所は)一人一人のスカウティングレポートが偏っていないところ。ピッチャーとしてはやりづらい」

 ただ、だからこそ、抑えることが前提だが、同時に駆け引きを楽しみたいという思いがそこに透けている。

 ちなみに過去、アストロズ戦では14試合に先発し5勝5敗、防御率3.44。今年も2試合に先発し、イーブン。6月2日にレンジャーズの本拠地で投げたときは、5回を投げて7安打、3失点で負け投手となった。しかし、6月12日の試合では、7回を1安打、1失点で勝利投手になっている。このときは、前の登板の反省を生かし、自分の球質で抑えるというより、相手を考え、攻め方を工夫。アストロズに打ち込まれたことは、ダルビッシュのポテンシャルを引き出すことにもつながった。

 対戦したい打者は――「全員です」とダルビッシュ。

 初めてのワールドシリーズの舞台を楽しむというよりは、アストロズ打線との対戦を楽しみたい――そんな胸の内が短い言葉にうかがえた。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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