JR東日本・田嶋大樹の“すごみ” アマナンバーワン左腕の異質な真っ直ぐ

楊順行

都市対抗で2試合連続完封

佐野日大高時代から評判だった速球派左腕・田嶋はJR東日本でさらに成長。アマチュアナンバーワン左腕として今度ドラフトを迎える 【写真は共同】

「あんな球、打てるわけがないでしょう」

 プロ野球のスカウト陣が、そううなったそうである。JR東日本・田嶋大樹、3年目の都市対抗だ。

 東京二次予選では、チーム5試合のうち完投勝利3で本大会出場に導いた文字通りのエース。伏木海陸運送との東京ドーム初戦でも当然のように先発すると、常時140キロ台半ばの速球、さらにスライダー、カットボール、チェンジアップ、100キロ台のカーブ……と、まさに変幻自在。わずか1安打の完封勝利だ。

 伏木の主軸・田中翔は3打数2三振で、「150キロを想定して練習してきたので、変化球は振らず、その真っ直ぐを狙う作戦。ただ、変化球を見逃せばストライク、真っ直ぐも異質な伸びをしてくるし、とにかく想像以上でした」。続く三菱重工名古屋(愛知県名古屋市)との2回戦でも、4安打完封。社会人ナンバーワン投手の力量を見せつけた。

「とにかく、チームを勝たせること。考えているのはそれだけです」と話す田嶋は、2回戦から中2日で臨んだ東芝(神奈川県川崎市)との準々決勝でも、先発して9回途中まで3失点とリードを許さなかった。この試合は延長タイブレークで敗れはしたが、チームの3試合すべてに先発して1イニングたりとも相手にリードを許さず、26回1/3を自責3。1.03という防御率は出色だ。

田嶋の投球フォーム

(撮影:沢井史)

社会人1年目の日本代表で成長

 佐野日大高(栃木)時代は、2014年センバツに出場してベスト4。サウスポーで、しかも当時最速145キロのキレのある速球は評価が高かった。JR東日本入りすると、3月の東京スポニチ大会から早くも先発の一角に。5回を3安打、7奪三振、無失点というデビューで、鈴木博志(ヤマハ)はたまたま、その破格の投球を見ていたという。

「モノが違う。真っ直ぐだとわかっていても、空振りが取れていた」

 ちなみに、磐田東高(静岡)出身の鈴木も、同期生から受けたこの衝撃をエネルギーに、ドラフト上位候補まで成長している。田嶋はルーキーイヤーのその年、社会人日本代表に選ばれ、BFAアジア選手権に出場。大きなきっかけになった、というのは本人だ。

「高校時代は、“ここで打たれたら……”とか、わりとネガティブだったんです。ですが代表チームで山岡(泰輔/東京ガス、現オリックス)さんのポジティブさを見て、佐竹(功年/トヨタ自動車)さんらに経験談を聞いたりして、細かいことを考えず、もっと自信を持っていいんだと考えられるようになりました」

 2年目になると、JR東日本・堀井哲也監督は田嶋をエースに指名し、「チームを勝たせることが役割」と自覚を促した。実際、都市対抗予選では3試合で防御率1.40とエースの働きを見せ、王子(愛知県春日井市)との本戦でも9回までをゼロで抑えた。だが、味方も得点できず試合は延長にもつれ、10回、167球でサヨナラ2ランを浴び、力尽きている。

アジア選手権優勝に貢献してMVP

3年間の社会人野球で2度目の日本代表入りを果たした田嶋。アジア選手権決勝で5回無失点と好投し、MVPに輝いた 【SAMURAI JAPAN via Getty Images】

 これも、ひとつのきっかけだったかもしれない。「三振を狙って投球数が増えれば、テンポが悪くなる」と、最速152キロの力で押し切るのではなく、少ない球数で打たせて取る。あるいは、「2試合連続延長を投げ抜くくらいの体力をつけておきたい」と、今年の春季キャンプでは自己最多となる225球を投げ込んだ。翌日でも、投げろと言われれば可能だったというから、細身に見えても心身は確実にタフになっている。なるほど、だからこそ都市対抗でも堀井監督は、中2日を含む3試合すべてに先発を託したのだ。

 さらに10月のBFAアジア選手権では、満を持して先発した台湾との決勝で5回を3安打5三振の無失点。2年ぶりの優勝に貢献してMVPを獲得し、10月26日のドラフトでは、上位指名が確実だ。やはり高校から東京ガス入りし、社会人ナンバーワンといわれた1学年上の山岡は、オリックスに入団した今季、新人王を争う活躍を見せているが、田嶋は気を引き締める。

「春、巨人2軍とのオープン戦は、1軍と変わらないようなメンバーで、バッティングが異次元でした。狙い球がくるまでカットしたり、社会人なら空振りを取れる球が当てられたり、見送られたり。社会人ならファウルになる球も、はじき返されたりします。そのレベルと対戦して、プロのイメージはある程度できてきました」

 ドラフト会議後には、日本選手権がある。

「しっかり役割を果たして優勝に導き、プロへ行きたい」。というのは、シーズン前の田嶋の言葉。都市対抗ではベスト8止まりだったが、もう一度、エースとして”役割を果たす”チャンスだ。JR東日本の日本選手権初戦は11月6日、対三菱重工広島である。
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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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