赤ヘル黄金期の1番・高橋慶彦氏が指南 緒方カープに説く『短期決戦の心得』
“無形の型”が一番強い
カープナインに短期決戦の心得を伝授した高橋慶彦氏。1979年の日本シリーズでMVPに輝くなど、短期決戦で結果を残してきた 【ベースボール・タイムズ】
やっぱり監督の采配は大事だからね。将棋と一緒。限られた範囲の中で同じ種類の駒を動かす訳だけど、名人が指したら名将棋、ヘボが指したらヘボ将棋になる。野球も同じ。指し手の違いで結果が変わってくることがある。そういう面では、緒方監督も去年は無我夢中で指していたと思うけど、今年はいろんな意味で余裕が出て来るはず。全体が見えるはずだし、去年とは違う采配ができるだろう。
――千葉ロッテ時代にはコーチとして2005年、10年と2度の日本一(10年は2軍監督としてファーム日本一も)を経験されているが、首脳陣の立場として短期決戦で気を付けるべき点は?
首脳陣側も普段通りというのが大事になる。優勝チームにとって一番怖いのは、相手が勢いに乗った状態で向かって来られること。下克上する時っていうのは、選手たちが“失うものがない”という状況の中で『ラッキー!』『行けるぞ!』と盛り上がっている。ロッテの時がまさにそうだった。負けて失うものがない中での相手の勢いというものは、やはり気を付けないといけない。
――黄金時代を続けていくために緒方監督が今後すべきことは?
これから緒方監督がやりたい野球をもっともっとチームに浸透させていけば、試合の中で選手たちが勝手に動くようになってくる。監督が何も言わなくても、選手がチームの勝利のために自分を犠牲にして、送りバント、セーフティーバント、右打ちでの進塁打、ノーサインでのバント攻撃なども決まるようになる。ベンチからのサインがなくても選手たちが守備位置をその都度、変えるようになってくる。それが生きた野球。それは数字に出ない部分。今のカープはもうすでにそういうチームになってきているし、短期決戦の中でもそういう力がいつも以上に必要になってくる。
――短期決戦に臨むうえで気を付けないといけない部分は?
あまりにもデータに頼り過ぎてしまうと、生きた野球にならない。最強なのは“無形”。相手を研究して、対策を練って試合に臨んでも、どうしても調子の良し悪しがあるし、想像と違う場合がある。その時に『思っていたものと違う!』、『データ通りじゃない!』となってしまうと、それが焦りにつながってしまう。一番強いのは、水。常に形を変えながら、状況に応じて柔軟に対応する。“無形の型”というものが、野球においても一番強い。
自分たちの野球をすれば絶対に勝てる!
まぁ、今の戦い、今のチームづくりをしていれば、そのうち日本一になれるよ。そのぐらいの気持ちで試合に臨んだ方がいい。実際は去年の忘れ物を拾いに行く訳だけど、絶対勝たなきゃいけないと、固くなってしまってはダメ。普段通りの野球をすれば必ず勝てる。その中で野球っていうのは1球で状況が変わってしまうから、ベンチからの指示を待つのではなくて、選手たちが自分たちで考えて決断して行けるようになれれば、負けることはない。
――今季のレギュラーシーズンの戦いの中では逆転勝ちというものが多かったが?
確かに、劇的な勝利が今年も多かった。でも気を付けないといけないのは、逆転勝ちというのは、相手のピッチャーが落ちてきたからできるものだということ。カープ打線が力を付けてきたということもあったとしても、リリーフにいいピッチャーを持ってこられるとそうそう逆転できない。本当は逆転勝ちではなくて、先制してそのまま逃げ切る形が一番いい。特に短期決戦になると投手の数も足りてくるし、いいピッチャーをどんどんつぎ込める。これまで通りに『逆転できるはず』って思っているうちに戦いが終わってしまう危険性もある。逆転できるってことはチーム力がある証拠だけども、特に短期決戦では、先制して、そのまま逃げ切る形をつくれるのが一番いい。
――最後に、赤ヘル黄金時代を築いた者として、33年ぶりの日本一を目指す緒方カープにエール、もしくはゲキをお願いします
自分たちの野球をすれば、絶対に勝てる。俺たちの時代はアウトで野球をしていた。ヒットで点を取るのではなくて、アウトで得点を奪う。どうやって1死三塁を作れるか。その形にできれば外野フライでも内野ゴロでも1点取れる訳だからね。打者陣にとっては最初の打席、そして最初の1点。まずは自分に、自分たちの野球に自信を持って試合に臨むこと。自信を持てれば、楽しむこともできる。今のカープには、その力があるはずだ。
(三和直樹/ベースボール・タイムズ)