広島がファーム日本一に輝いた理由 CSで活躍うかがう「稲穂」たち

坂上俊次

8年目・庄司の目を見張る成長ぶり

巨人との決戦を制し、初のファーム日本一に輝いた広島ナイン 【写真は共同】

 目を凝らせば、流した汗が見えてくる。

 9月28日、東京ヤクルトとの地元最終戦、8年目の広島・庄司隼人が見せた粘りは圧巻だった。きわどい球に食らいつきながら粘ること12球、フォアボールで出塁。その中身の濃さは首脳陣の表情を見れば一目瞭然だった。その3日後には、横浜DeNA・井納翔一の変化球に崩されることなくプロ初ヒットをマークするのだから、成長ぶりは明らかである。

 今年の広島2軍は26年ぶりにウエスタン・リーグ優勝を果たし、ファーム日本選手権初制覇も果たした。その中でも、庄司の活躍ぶりは目立っていた。リーグ3位の打率2割9分4厘も光るが、さらに際立つのが四球数だ。昨年の2倍にあたる52個を選び、その結果、出塁率4割0分7厘というリーグトップの数字をたたき出したのだ。

「今年はファームで1、2番として起用されることも多かったです。チームとしても、次の打者につなぐ方針があったので、とにかく塁に出ることを考えました」

 庄司の言葉からは、責任感と役割意識が強く感じられた。

テーマは「三振を減らす」

 ベテランだって目の色を変えて戦った。31歳の大砲・岩本貴裕は、バットを短く持ってセンターから逆方向へコンパクトな打撃をも見せた。

「追い込まれても簡単にアウトにならないようにと意識してきました。同じアウトになっても、3球でアウトになるのと6球粘るのとでは大きな違いがあると思います」

 若手からベテランまで、アベレージヒッターから大砲まで、チームの意識は浸透していた。「三振を減らす」。首脳陣は明確なテーマを選手に示していた。2軍の三振数は651個。リーグ2位のドラゴンズより100以上、最も多いタイガースと比べると265も少ない数字であった。

 収穫は数字だけでは語れない。目標に向かう中で、選手は役割を考え、バッティングスタイルを模索するようになっていった。

 ドミニカ共和国出身のアレハンドロ・メヒアもその一人である。「三振を減らそうと考えることで自分は変われたと思います。もともと、自分は集中力を切らしやすいところがありましたが、1球1球を大事にできるようになれました」。

 リーグトップの打率3割3分1厘、シーズン中に支配下契約も勝ち取り、1軍で初ヒットも放った。練習熱心さにも定評がある。まだ24歳の男は、日本で成長を遂げながら、夢を叶えようとしているのだ。

育成を重んじる指揮官

 2軍監督の水本勝己は苦労人である。1989年にドラフト外で広島に入団したものの、1軍での活躍を果たすことなく、2年で現役生活を終えた。以来、北別府学、川口和久、大野豊らの投手王国をブルペン捕手として支えた。そこから指導者に転身し、ブルペンコーチ補佐や3軍統括コーチを歴任した。

 華やかな実績こそないが、水本は柔軟だった。先輩のみならず、後輩の意見にも耳を傾けた。年少者であっても、他球団であっても、頭を下げて話を聞いた。

「自分は一流選手にはなれませんでしたが、一人でも多くの選手を育てたい気持ちは誰よりも強いと思います。いつの日か『水本さんに出会って人生が変わった』。こう言われるような存在になりたいですね」

 そんな指揮官だからこそ、勝利のみならず、育成を大事に考えてきた。そのためには、自分で考え、自分で行動できる選手を育てる。我慢強く、コミュニケーションを厭わない指導の中で、選手は自分の役割を考え、アプローチを工夫できるようになっていった。

1/2ページ

著者プロフィール

中国放送アナウンサー。広島カープ戦を中心にテレビやラジオで実況を担当。過去5度の2000安打達成の瞬間を実況する。主な著書に「惚れる力 カープ一筋50年 苑田スカウトの仕事術」(サンフィールド)。なお「優勝請負人」(本分社)では第5回広島本大賞を受賞。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント