“スラッガー”清宮幸太郎の育て方 高校通算83本塁打のOB鈴木健氏に聞く

ベースボール・タイムズ

「長所を磨き続けることが重要」

浦和学院高時代は通算83本塁打の超高校級スラッガーだった鈴木氏。1987年ドラフト1位で西武に入団するも、当時は清原、秋山らプロ球界を代表する長距離砲がひしめく黄金時代。自分の生きる道を探り、中距離打者に転向してチャンスをつかんでいった 【ベースボール・タイムズ】

――やはり最初は高校とプロのレベルの違いを感じると思いますが?

 まず、最初のキャンプでびっくりする。僕の場合は最初に1軍のキャンプに行かしてもらいましたけど、そこでもう圧倒されちゃいましたね。『やべぇとこに来ちゃったな』って(苦笑)。バッティング練習もそうですけど、その頃はチーム内に球界のエース級と呼ばれるようなピッチャーがゴロゴロいて、そのピッチャーとキャンプの紅白戦とかでは対戦しないといけない。もう打てなくて、嫌になっちゃうんですよね(苦笑)。そこを乗り越えないといけないんですけど、個人的には清宮君には『やれるぞ』って最初から思えるようなチームに入って、1軍でどんどん試合に出る中で成長していってもらいたい。

――実際に清宮選手のバッティングを見て、プロ入り後の課題はどこになるでしょうか?

 まずはどれだけプロのスピードについていけるか。高校生のピッチャーとはやっぱりレベルが2つも3つも上になるので、そこで感じたものをどれだけ練習して、次に生かしていけるか。でもそれは“慣れ”というものが解決する部分でもある。同じプロ同士の試合でも、1軍と2軍の試合の雰囲気はぜんぜん違うし、その意味でも早くプロの1軍の試合に出て、一流ピッチャーのスピード、コントロール、切れを体感して、慣れることから始まると思います。

――受け入れる球団側の指導方法、例えば良きコーチとの出会いも大切になると思いますが?

 まぁ、あの長打力というのは持って生まれた素質、天性のものなので、その部分を伸ばしていけばいいと思う。プロの投手はコントロールがいいので、どんどん弱点を突かれる。それで打てないから自分の弱点をどうにかして補おうとすることが多い。でもそれを意識し過ぎると長所が死んでしまうことがある。長所も練習しないと衰えてしまいますから、もちろん弱点を克服することは大事ですけど、同時に自分の長所を磨き続けることも非常に重要になる。何でも平均点の選手というのは監督も使いづらいですからね。清宮君にはやっぱりあの長打力をもっともっと伸ばしてもらいたいですね。

――改めて、これだけ世間から注目された中で野球をするというのは大変だと思いますが?

 大変ですよ、そりゃあ。僕が思い出すのは、松坂大輔が西武に入ってきた時ですね。本当に大変だった。キャンプの練習中に移動する時もファンの人だかりができて身動きが取れなくなっちゃうから、影武者も作ったりしてね。別の選手が大輔のジャンバーを来て、帽子を深くかぶった状態で走らせて、その間に車で移動するとか、ね(笑)。とにかくすごかったですよ。結局、彼は1年目から大活躍しましたけど、思い返すと、どれだけ注目されても“自分の型”というものを崩さなかったですね。当時の東尾(修)監督もピッチャー出身だったので、その辺りの扱いもすごく分かっていたと思います。

――清宮選手自身も子供の頃から常に世間、マスコミから注目されてきたので、周囲の雑音で自分のリズムを崩すこともないとは思いますが?

 そうですね。注目されることに慣れているし、マスコミ受けもいいですからね。解説者の方の中には、『清宮は厳しい』という意見もチラホラ聞きますけど、僕は1年目から打てると思います。頭のいい子なので、自分に何が足りないか、どうしたら打てるのかというのもすぐに理解できる力がある。あとは、身体的な部分で鍛えること。体格は立派ですけど、まだまだ高校生の体なので、プロのトレーニングの中でプロ仕様の肉体を作って行ってもらいたい。そして体が出来上がれば、もっともっとホームランを打てるのではないでしょうか。

「1年目は打撃のことだけを考えて!」

9月のU−18W杯では木製バットで2本塁打を放つなど、木製での対応も大丈夫と太鼓判を押す鈴木氏。1軍で使い続けてもらえれば1年目から2ケタ本塁打も打てる可能性は十分という 【写真は共同】

――球界の新たなスターとして大きな期待を背負っています。現スターの北海道日本ハム・大谷翔平選手とは、また一味違ったタイプの選手です。

 大谷君も最初は『二刀流なんて絶対無理だ』という声が多かったですが、それを結果で覆してきた。そして大谷君もやっぱり1軍の試合に出るのが早かった。1軍の試合に出る中で、経験を積んで、少しずつバージョンアップしてきた。だから清宮君も、早く1軍の試合に出ることが大事になると思います。

――現状、複数球団が1位指名で競合するでしょうし、その結果は神様のみぞ知るというところですが、具体的にどういう球団がおすすめでしょうか?

 左バッターの手薄な球団。長打力が不足している球団。1年目からチャンスをもらえる球団がいいでしょう。あとは一塁守備の問題もある。守りの部分である程度、目をつむってもらえるような球団がいいでしょうね。DHと言っても、やっぱりそこは助っ人外国人のポジションですからね。

――まだ空想になりますが、プロ1年目ではどれぐらいの成績を残せるでしょうか?

 まず使ってもらえないとダメですけど、常に試合に出れるようであれば、高卒1年目からでもホームラン10本以上は打てるでしょう。でもまずは春季キャンプで練習している清宮君の姿を早く見たい。実際に見てみないと分からない部分もありますからね。でも間違いなくフィーバーになる。だから地理的に観に行きやすい場所でキャンプを張っている球団に入ってくれるとありがたいですけどね(笑)。

――では最後に、高校通算83本塁打を打った者として、清宮君にアドバイスをするとすれば?

 まずは早く1軍の投手に慣れることが大事。ホームランバッターなので、それだけを考えてキャンプに臨んだ方がいい。もちろんプロとして守備や走塁など、学ばないといけないことは多くありますけど、やっぱりバッティングで評価されて、高校通算111本塁打という肩書きを引っ提げてプロに入る選手です。あの天性の長打力も、磨き続けないと死んでしまうので、最初は自分の長所をなくさないように。とにかくバッティングのことだけを考えてほしいと思います。

(取材:三和直樹/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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