本気で日本と向き合ってきたフォルトゥナ 会長に聞く日本マーケットの重要性

スポーツナビ

シェーファー会長(右)と日本デスクの瀬田元吾氏。フォルトゥナは海外クラブの中でも日本を意識した取り組みが目立つ 【スポーツナビ】

 ブンデスリーガ2部のクラブながら、宇佐美貴史の新天地として日本でもその名が広く知れ渡ったフォルトゥナ・デュッセルドルフ。このクラブと日本の間には、浅からぬ縁がある。クラブの本拠地であるドイツ中西部の街デュッセルドルフには多くの日本企業が進出しており、欧州でも有数の日本コミュニティーが存在。約7000人もの日本人が住んでいると言われ、フォルトゥナは海外クラブでは珍しく日本デスクを設け日本のマーケットを強く意識した数々の取り組みを行っている。

 そんなフォルトゥナのアカデミーチームが9月中旬に行われたJリーグU−17チャレンジカップで来日。アカデミーの遠征にクラブ最高幹部であるロベルト・シェーファー会長が帯同していることからも、日本を強く意識したクラブの姿勢が見て取れる。宇佐美の獲得にはどのような狙いがあり、日本とどのような関係性を築こうとしているのか。シェーファー会長にクラブのビジョンを聞いた。

宇佐美獲得の狙いと効果

――まずは今季、宇佐美選手が加入しました。日本人選手の獲得はこれまでも狙っていたのですか?

 われわれが日本マーケットを見るという意味で、まずはデュッセルドルフにある大きな日本コミュニティーの存在があります。日本本体を見る前に、まずはデュッセルドルフにある日本コミュニティーがわれわれにとっては重要な日本のマーケットと位置付けています。

 クラブとしてはもちろん長く日本人選手を探してきました。(選考基準は)有名で実績のある選手であることと、チームのコンセプトに合うこと。もちろんパフォーマンス面、監督や現場が求める選手というのは非常に重要ですが、今回の場合はそこにプラスして日本という別の部分の理由も非常に重要だと考えていました。

 そういった選手をここまでずっと探してきていましたし、その中で宇佐美選手を獲得できたというのは本当にうれしく思っています。

 また、去年日本サッカー協会とJリーグが行っている協働プログラムに協力する形で、Jリーグクラブのアカデミーダイレクターの研修をうちで実施しました。そういった協力を今までやってきたことの対価として、今回大阪で行われた大会(=2017JリーグU−17チャレンジカップ)にご招待いただいたのですが、1つの事例としてこういった新しい機会や可能性をもらうことができたことは大切だと考えています。Jリーグにとっても利益があることですし、われわれにとっても利益がある非常に良い関係性を作ることができたと思います。

 ただ選手を獲得してマーチャンダイジングのグッズをたくさん売りたいとか、ユニホームを売りたいとかいう安易な考えではなく、きちんとした現場のチームを強化することと、関係性をしっかりと作る。そういう目的を持って、日本人選手を獲得したいとずっと思っていました。

――宇佐美選手には、クラブとして求めている役割などを伝えた上で獲得交渉を行ったのでしょうか?

 もちろんそれは行っています。直接ではないですけれども、代理人を通じて彼に求めているものはきちんと伝えていました。それを理解した上で、2部のクラブに来ています。彼が試合に出なくてはいけないという思いをわれわれも理解していますし、関係はすごくいいと思っています。

 私がこのクラブに来てから1年半が経つのですが、今はとにかく街にアイデンティティーを持った強いクラブにすることを目指しています。その中で選手を育てていく育成型クラブであるということを明確にわれわれのフィロソフィーの真ん中に持ってきており、そのためにやらなくてはいけないことを注力してやっているという現状です。

 今、クラブを育成型に切り替えていく中で、他のクラブで非常に優れたタレントとしてトップチームに所属しながらも可能性がなかなかもらえず、伸び悩んでいたり、成長に苦しんでいる若い選手たちを獲得し、成長させてプレーさせるというのがわれわれのコンセプトです。

 宇佐美選手は非常に優れた才能を持っていますが、ドイツのクラブではあまりチャンスに恵まれなかった。そういう彼の置かれていた状況が、われわれのコンセプトにマッチするものでした。

 もちろんまだチームに入ってそんなに時間が経っていないので、うちのチームとしてどういった戦術で、どういう考えで戦っていくかということはまだ理解し切れていない部分もあると思いますが、それは時間をかけてやっていかなくてはいけないことです。そんな中、デビュー戦でゴールを決めたということは、彼にとってもわれわれにとっても非常にいいことだったと思っています。

――宇佐美選手のデビュー戦でのゴールをどのような心境で見られていましたか?

 一瞬のゴールでしたけれども、その中に技術であったりタイミングであったり、スピードであったりとすごくいろいろなものが凝縮されていた。もちろん素晴らしいゴールだったと感じました。

日本マーケットとの向き合い方

今季フォルトゥナのトップチームには宇佐美(右)が在籍 【写真:フォルトゥナ・デュッセルドルフ】

――今ではユース含めて5人の日本人選手が在籍していますが、下部組織に日本人を在籍させておく狙いはどこにあるのでしょうか?

 われわれの原則的なフィロソフィーの中で、自分たちのクラブでアイデンティティーの強い選手を作っていくということが今は明確にあります。その中でトップチームに選手を連れてくるだけではなくて、若手の日本人を獲得して、その若手がわれわれのフィロソフィーの中で成長して、可能であればトップチームに上がっていく。そういった日本人のタレントを育てるというのも、1つわれわれの目標というか狙いとして持っています。

 われわれはお金のあるクラブではないので、他のビッグクラブのようにいい選手を買ってくることができない分、いいタレントを若いときから取って、自分たちのクラブの中でとにかくいい教育、いい指導で育てて上に上げていければと思っています。

――日本というマーケットに対しては、選手獲得という強化面とスポンサー獲得のセールス面、クラブのファン獲得という3つの側面があると思うのですが、それぞれどのように意識されているのでしょうか?

 基本的には全てを求めています。まず日本の優秀な選手たちがヨーロッパに来る、ドイツに来るためのファーストステップのクラブとしてうちがナンバー1だと思ってもらいたい。ドイツの中でデュッセルドルフに日本企業がたくさんあるというのはすでにみなさんに知られていることですし、そこに日本人選手が来て活躍してくれることで日本企業にとってもプロモーションするいい機会になると思います。

 また、ヨーロッパの中でもデュッセルドルフがあるノルトライン=ヴェストファーレン州というエリアは経済圏においても非常に有利で、地理的にもドイツの中央にある。非常に発展している地域ですし、だからこそ日本企業がたくさん進出しているわけです。その日本企業に対しては、あらためてわれわれの住んでいる街やクラブが皆さんの企業にとって非常に優れたプラットフォームになる、ということをきちんと示す機会になればと思っております。

 そしてデュッセルドルフに住んでいらっしゃる日本人の方含めてですけれども、彼らにとって、いわゆる仕事以外の自由な時間に、ドイツ人であったりドイツ文化と触れ合う機会としてうちのクラブを活用してほしい。試合を観に来てもらって、そこで人と知り合ったりいろいろと感じてもらう。そういう場所になればというふうに願っております。

――以前よりクラブとして日本に目を向けるということは行ってきたのでしょうか?

 デュッセルドルフに日本人が多く住み出したのは60年ほど前からと言われています。私も何十年前の話はそこまで分からないのですが、近年はもちろんそれを明確に目指してきました。クラブに日本デスクを設けて今年で10シーズン目なのですが、明確なポジションを作って、われわれのクラブの日本人スタッフである瀬田元吾がずっとそれを担当してきた。他のヨーロッパのクラブに日本人選手がいってしまう前に、われわれがそういう選手をきちんと獲得できるようにしなくてはいけない。そのためにも、われわれが主導的に動いていかないといけないことだと思ってます。

1/2ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント