ハリルに課された2つのミッション NZ戦で見いだせなかった「新しい何か」

宇都宮徹壱

的確なベンチワークで勝ち越しに成功

的確なベンチワークで勝ち越しに成功。倉田(7)はこれが代表初ゴール 【高須力】

 この日のニュージーランドのシステムは5−3−2。プレーオフを想定して、まずは守備をしっかり固めてカウンターという狙いが透けて見える。中盤を完全に支配した日本は、前半10分までの間に3つの決定機を作ったが、いずれもギリギリのところでネットを揺らすには至らず。すっかり影を潜めていたはずの決定力不足が、ここに来てぶり返した格好だ。チャンスをつぶし続けた日本は、30分が経過したあたりから少しずつ相手にカウンターを許すようになる。攻撃の枚数が少ないから救われているものの、ちょっと嫌な展開。前半は0−0で終了する。

 ハーフタイムは両チームともメンバー交代なし。後半開始早々の5分、日本は山口のシュートが相手のハンドを誘発してPKのチャンスを得る。キッカーとなったのは、前半で決定機を決められなかった大迫。PKキッカーは「(自分に)決まっていました」と当人は語っていたが、ここでしっかり挽回したい強い気持ちがあったことは容易に想像できる。右足から放たれたシュートはゴール右を突き刺し、ようやく日本が先制した。

 しかし喜びもつかの間、その後のニュージーランドのキック&ラッシュに日本は受け身となり、後半14分には同点ゴールを許してしまう。コスタ・バーバルーゼスの右からのドリブルは、いったんは長友と井手口に阻まれるも、ルーズボールをマルコ・ロハスが拾ってクロスを供給。これを中央で待ち構えていたクリス・ウッドがヘディングでネットを揺らした。この時、ウッドに対して吉田と酒井宏が競っていたものの、「あと半歩、一歩の差」(吉田)を突かれる格好となってしまった。

 ここから日本のベンチが動き出す。失点直後の後半15分、大迫と香川を下げて杉本健勇と小林祐希が、それぞれワントップとトップ下に。さらに25分には乾貴士(武藤OUT)、33分には浅野拓磨(久保OUT)、37分には倉田秋(井手口OUT)がピッチに送り込まれ、システムも4−2−3−1から山口をアンカーに置いた4−3−3に変更された。一連の交代で顕著な変化をもたらしたのが、左サイドから果敢にドリブル突破を仕掛けた乾の存在。後半42分には、その乾の突破からクロスが上がり、逆サイドの酒井宏が頭で折り返したところを倉田がダイビングヘッドで合わせ、これが代表初ゴールとなった。

「(相手に)デカい選手がいたので、あの辺りに(クロスを)上げておけば誰かが合わせてくれる」と乾が語れば、「左サイドで貴士が持ったら、ほとんど崩してくれてクロスを上げてくれていたので、中で突っ込んでいけば何か起きると思った」と倉田。この時、ゴール前には浅野と杉本もいたので、勝ち越しゴールは時間の問題であった。アディショナルタイム、山口と交代で入った遠藤航のプレーはもう少し見てみたかったが、ほどなくして終了のホイッスル。多くの課題を残しながらも、日本は2−1で辛勝した。

評価が難しい試合だったことは確かだが……

残念ながら今回のゲームでは「新しい何か」を明確に見いだすことはできなかった 【Getty Images】

 正直、評価が難しい試合だったと思う。今回の苦戦の要因を挙げるならば、ニュージーランドが日本にとって苦手なキック&ラッシュのチーム(少し前のオーストラリアと同タイプ)であったこと、雨でピッチがスリッピーな状態であったこと、そしてアピールしたい選手の気持ちがコンビネーションに齟齬(そご)をきたしていたこと、などが挙げられよう。とはいえ本大会では、対戦相手は日本の弱点を突いてくるだろうし、ロシアだって大会期間中に雨は降る(今年6〜7月のコンフェデレーションズカップの際も、突発的な豪雨が何度もあった)ので言い訳にはならない。

 3番目については、W杯予選を突破して以降のチームには常に付きまとう問題であり、ファンもある程度は勘案する必要があるだろう。ハリルホジッチ監督も語っているとおり、現状の日本代表は「われわれが見せられる最高のレベル、W杯のレベルからはまだ程遠い」。ゆえに最終予選が終わった直後のタイミングで、強豪国とはおよそ言い難い相手とホームで対戦することについても、それなり以上の意味があると個人的には考える。

 最後に、先に述べた「新しい何か」についても触れておく。残念ながら、今回のゲームでは明確に見いだすことはできなかった。それでも、試合後にハリルホジッチ監督が語った「私が行おうとしているのは、日本人の特徴を生かした日本式のサッカーでプレーすることだ」という発言には、ひそかに注目している。これまで「体脂肪率が」とか「デュエル(球際の競り合い)が」とか「ポゼッションばかりが」とか、何かと日本サッカーの常識にアンチテーゼを突きつけてきたハリルホジッチ監督。だが、ここに来て「日本人の特徴を生かした」と発言したのには正直驚いた。果たしてそれは、イビチャ・オシム元日本代表監督が掲げた「日本サッカーを日本化する」と相通じるものなのか。10日に行われるハイチ戦では、そのあたりにも注目したい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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