所属カンファレンス“移籍”の影響は? CEOが語るサンウルブズ3季目の構想

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提供:(公財)日本ラグビーフットボール協会

新シーズンへ向けた展望を語るサンウルブズCEOの渡瀬氏 【スポーツナビ】

 公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップ(W杯)に向けて」の第76回が9月25日、港区の麻布区民センターで開催された。

 今回は「サンウルブズ3年目の展望と課題」と題して、講師にスーパーラグビーの日本チーム「ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズ」を運営する一般社団法人ジャパンエスアールの最高経営責任者(CEO)渡瀬裕司氏を招き、司会はラグビージャーナリスト・村上晃一さんが務めた。

 慶応大ラグビー部出身の渡瀬氏は引退後、金融機関に就職。その一方で社会人2年目からは母校で指導者としての道もスタートさせ、監督やGMなどを歴任した。サンウルブズには設立初年度から業務執行理事代理として関わっていたが、16年末からCEOに就任。この日は渡瀬氏が17年シーズンから始めた取り組みの振り返りと反省、そして来季へ向けた構想が語られた。

2勝止まりも、代表との連携向上

2シーズン目のスーパーラグビーでも厳しい戦いが続いたが、日本代表には多くの選手を送り込んだ 【写真:Haruhiko Otsuka/アフロ】

 サンウルブズの昨季成績は「2勝13敗、17位」と、参戦初年度(1勝1分13敗、18位)よりは向上した。渡瀬氏は「しんどかった」としながらも、チーム最大のミッションである「日本代表の強化」には一定の成果を出すことができた、とシーズンを振り返る。

 成果とは、代表にサンウルブズ所属選手を多く送り込めたことだ。16年11月のヨーロッパ遠征に選ばれた選手のうち、サンウルブズの選手はたったの5人。それが17年6月のルーマニア、アイルランドとの2連戦には23人のサンウルブズ選手が選ばれた。「17年に入って(代表との)連動がかなりしっかりできてきた。今後も主な日本代表はサンウルブズから選ばれるだろう」と渡瀬氏は手応えを口にする。

 チームが強化の先に見据えるのはラグビーの競技普及、そしてビジネス的な成功だ。サンウルブズは昨季、マスコット「ウルビー」やチアガールチームを誕生させ、開幕戦では人気バンド「MAN WITH A MISSION」のミニライブを開催。他にも前日練習をファンクラブ向けに公開、秩父宮ラグビー場周辺の飲食店とのコラボなど、初年度の経験や国内外チームの取り組みを参考に、さまざまな矢を放った。

 また4月のニュージーランド遠征で、サンウルブズメンバーがパンク事故で立ち往生した車を“救出”したことが話題になると、翌5月の国内第3戦ではJAF(日本自動車連盟)の交通安全体験ブースを設置。偶発的な機会にも即座に行動した。

「いずれはサンウルブズで1年間」

平均入場者数の減少にはスケジュールも影響していると分析する 【スポーツナビ】

 このような施策がありながら昨季、秩父宮で開催されたサンウルブズ主催4試合の平均入場者数は、初年度から約20%ほど減少した。16年は平均で約1万7000人を集めたが、17年は約1万4000人。

 前述の通りいくつもの施策を重ねた渡瀬氏だが、「1年目の数字を見て、お客さんを呼ぶだけのバリューのあるイベントであると我々が勘違いしてしまった。プロモーションのための努力が足りなかった」と反省する。

 スケジュールの影響もあった。日本開催は1〜2カ月に1回と、せっかく勝利しても盛り上がりが間延びてしまう。日本側が決められることではないだけに「ある程度連続性を持って試合を開催しないと集客は難しい」と苦い表情を浮かべた。

 観客増のため渡瀬氏が熱を込めて語ったのはサンウルブズ、そして代表の強化。「負け癖ではなく勝つカルチャーを身に付けて日本代表に送り込みたい」と、数年かけて優勝を狙えるチームを作り上げるべく、経験豊富な外国人選手の補強を示唆した。

いずれはサンウルブズの選手たちがスーパーラグビーに専念する日がくるかもしれない 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 また60人近くのトップリーグ選手がサンウルブズでプレーした昨季から、コンディションやモチベーション管理を考慮し「(選出メンバーの数を)もうちょっと絞り込みたい」とも。他にも遠征時の練習環境など整備を進めることで、リーチ・マイケルら他チームでスーパーラグビーに参戦する日本代表選手を呼び寄せられるような素地作りを進めている。

 日本唯一の完全なプロチームを預かる者として、さらなる発展の可能性も探っている渡瀬氏。選手が1年で2つのリーグを掛け持ちする現状に「いずれはサンウルブズの選手に対して1年間ちゃんと面倒を見るくらいのものを作っていきたい」との考えを明かす。

 トップリーグとの調整や財源問題などハードルは高いが、前段階として「大学からトップリーグではなく、サンウルブズへの直接加入」「サンウルブズのスーパーリーグ以外への参戦」など私案も披露し、将来的な実現に意欲を見せた。

移籍を後押しした日豪のつながり

日本企業がメーンスポンサーとなっているワラターズ 【写真:アフロスポーツ】

 来季、チームはスーパーラグビー参戦3シーズン目を迎える。ここまで1勝、2勝と厚い壁に跳ね返されているが、サンウルブズを取り巻く状況は過去2年と異なる。4月にスーパーラグビーを運営する「SANZAAR」が発表した通りカンファレンスの再編が行われ、サンウルブズは従来の南アフリカカンファレンスから、オーストラリアカンファレンスへ“移籍”するからだ。

 これまでの南アフリカカンファレンスでは、あまりに長い移動距離がネックだった。地球の裏側にある日本と南アフリカの位置関係は、選手たちのコンディションだけでなく、時差の問題からビジネス的にもに悪影響を及ぼす。「去年からずっとSANZAARに(移籍を)訴えていた」と渡瀬氏が語ったように、日本側からの働きかけが再編のひとつのキッカケになった。

 サンウルブズ加入で押し出されるチームが生まれるため調整は決して簡単ではなかったが、一方で、ビジネスにおけるオーストラリア側の期待が“移籍”実現を後押しした側面もありそうだ。例えば14年スーパーラグビー覇者ニューサウスウェールズ・ワラターズのメーンスポンサーは、エアコンなど空調機器でおなじみのダイキンで、「日本で試合をするメリットもあるのでは」(渡瀬氏)。

 来季のシーズン日程を見ると、時差、移動距離の問題がずいぶん改善されたことが分かる。この再編は成績向上につながるのか、渡瀬氏は開幕からの2試合と3月24日からの東京3連戦(秩父宮)に期待を寄せる。特に注目なのは昨季最終戦で48―21と完勝したブルーズ戦、来季は東京3連戦の最後(4月14日)に激突する。

「ブルーズは(昨季敗れたことで)本当に眼の色変えてきますからね(笑)。相当なメンバーが来るんじゃないかなと思っています。これは日本のラグビーファンにはもちろん、選手にも非常にモチベーションになりますよ」

 トップリーグがサンウルブズのためにシーズンを短縮するなど、日本ラグビー界をあげて臨むスーパーラグビーの新シーズン。チームの開幕戦は2月24日、ブランビーズとのホームゲームだ。

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