凱旋門賞は“悲願”である必要はあるのか パラダイムシフトで見る日本競馬の可能性

“上がり馬”の復権

 その3歳クラシック戦線。実際、神戸新聞杯でレイデオロに敗れたキセキ、サトノアーサーなどは、現時点での完成度の差が出てしまっただけのようにも映りましたし、東の前哨戦を快勝したミッキースワローに関して言えば、追加登録料を払っての菊花賞挑戦ですから、これはもうハッキリと関係者の想像を超えた成長を遂げている、ということ。近年、あまり目立たなくなっている“秋の上がり馬”ですが、こういった未知の部分を秘めた馬の魅力は、昔も今も変わりません。

3歳牝馬戦線の上がり馬の1頭ディアドラ、秋華賞で勢力図を一気に塗り替えるか(写真は今年のオークス) 【写真:中原義史】

 牝馬に目を転じても同様です。今年の3歳はハイレベルな世代として春に注目を集めましたが、紫苑Sを制したのはオークス4着から夏場に古馬との対戦で成長を遂げたディアドラでしたし、前哨戦のローズSで既成勢力を直線一気に差し切ったのは、芝替わりで2勝目を挙げたばかりのラビットランでした。

 これら“上がり馬”の躍動ぶりに注目できるのも、「パラダイムシフト効果」とみては我田引水的でしょうか?

 いずれにせよ、今週末の毎日王冠のソウルスターリングが、古馬相手のGIIでどういった走りを見せるのかは注目です。今年の3歳牝馬に抱いていたイメージが、どんな具合に再構築されることになるのか。とにかく新たな視点が示されることになるでしょう。

より視野を広げるために

 そんなような流れから、冒頭の海外挑戦について話を戻しますと、どうしても凱旋門賞が“悲願”でなくてはならないのか、という疑問が頭にもたげてくるのです。「ドバイや香港などとは伝統や格式が違う」なんて理屈があるとするなら、ではイギリスやアメリカはどうなのでしょうか。

 凱旋門賞は1969年にスピードシンボリが長期遠征を敢行したのがキッカケ、ということになりますが、例えばハクチカラがアメリカに長期遠征したのはその11年も前。その例を挙げながら松山康久元調教師は「アメリカ競馬も選択肢として考えていいと思うんだ」と今でも言ってますし、イギリスのKジョージ6世&QエリザベスSにハーツクライで挑戦した橋口弘次郎元調教師も、ワンアンドオンリーがダービーを制した後のトークイベントの席でしたが、凱旋門賞への挑戦の可能性について問われた際に、「私はフランスよりイギリス」と口にされていました。

 海外遠征には様々な事情が絡みますから、ウッカリしたことは言えませんが、逆に様々な事情のせいで凱旋門賞しか選択肢がないのだとすれば、それはそれで日本競馬の引き出しの有無の問題になったりしませんか。

 凱旋門賞に挑戦してはいけない、ということでは決してありません。ただ、様々な背景を持った陣営が、固定観念に縛られず、広い視野で海外競馬に目を向ける。そのことで日本の競馬界に更に多くのノウハウが蓄積されていくのではないか、と思うのです。

 それが“日本の競馬全体の底力”になっていくのではないか、と。これこそが悲願達成の、実は一番の近道だったりしませんか?

 秋競馬本番の展望で、パラダイムシフトというキーワードを連想しているうちに、少々脱線気味になってしまいました。凱旋門賞に挑戦した2頭の走りっぷりを観て、つい余計なところに意識が飛んだ次第。これも秋特有の物思い(?)としてご容赦を。

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著者プロフィール

中央競馬専門紙・競馬ブック編集部で内勤業務につくかたわら遊軍的に取材現場にも足を運ぶ。週刊競馬ブックを中心に、競馬ブックweb『週刊トレセン通信』、オフィシャルブログ『いろんな話もしよう』にてコラムを執筆中。

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