連載:東京五輪世代、過去と今と可能性

マイペースな藤谷壮に感じる頼もしさ 東京五輪世代、過去と今と可能性(6)

川端暁彦

U−20W杯での課題は攻撃参加ができなかったこと

U−20W杯での自らの課題に関しては「攻撃参加の少なさ」を挙げた 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

――U−20W杯では、藤谷選手のハイライトはラウンド16のベネズエラ戦(0−1で敗戦)だったと思います。対面はA代表でも活躍する(アダルベルト・)ペニャランダ選手でした。

 事前にスカウティング映像を見ても、体もデカいし、スピードもテクニックもあって、これはすごい選手だなと思いました。でもまずは「やられない」という意識を持ってやろうと。「A代表でW杯予選に出ているような選手だから、やられても仕方がない」という思いは全然なかったですね。「絶対に付いていってやろう」と。実際、1対1の場面はすごく多くなりましたけれど、そこはやられていなかったと思います。

――逆に課題だと感じたところはありますか?

 守備にばかり意識がいって、攻撃的に出ていけなかったことですね。あとはサイドを突破した次のプレーの精度です。そこはずっと課題です。ビルドアップもまだまだで、本当に課題は多いです。

――大会を経て、藤谷選手が少し変わったという人もいます。

 自分ではあまり意識はしていないですね。今はまた、監督に求められることも少し違いますし、それにまず応えることに精いっぱいという感じです。「俺は世界大会に出たから」みたいにしていても、急にうまくなったりするわけではないですから。まあ、変わらないです(笑)。

――でも試合に出られるようになっているのは、何かしら評価が変わったからだと思います。

 昨シーズンはルヴァン杯のときに負傷してしまって出られなかったですけれど、今年はそこでチャンスをつかむことができました。その差かもしれません。

――高校生のときにトップで浦和とやって感じたようなギャップも、少し埋まってきたのでは?

 そう考えると、自信はついてきたんじゃないかと思います。まだ不安な部分も多かったりするのですが、いろいろと代表でも経験できて……。去年の(AFC)U−19選手権も、1つのきっかけだったのかもしれません。途中から先発を外されて、すごく思うところがありました。自分でも気付かないうちに、レギュラーで当然という気持ちがあって、それを内山監督に見抜かれていて、外されました。

 あれから本当に「練習から全力を出す」という当たり前のことなんですけど、それをあらためて意識するようになって、その経験が今年に生きていると思います。今試合に出ていても、1日1日監督にアピールしていかないといけないと思えていますから。

――そういえば、チームで(ルーカス・)ポドルスキと一緒にプレーしてみて、どう感じていますか?

 まずはキックがうまいなあ、と。ちょっと「出てこないだろ」というタイミングでも、彼は「行け」と言うんですよね。そして実際に行ってみると、すごいボールがピンポイントで出てきたりします。技術がしっかりしている選手だと思います。

3年後は「サポーターから認められる」選手に

「チームあっての代表」と東京五輪への思いを口にした藤谷。日々の練習の大切さを実感している 【(C)J.LEAGUE】

――20年の東京五輪に向けた3年後の自分をどう意識していますか?

 そこ(東京五輪)に出たいという気持ちはもちろんあります。ただ、チームあっての代表ですし、練習からしっかりやって試合に出続けていく中で、監督から「いい選手だな」と思ってもらえれば、呼ばれるだろうと思っています。「五輪があるから頑張ろう」みたいな気持ちではなくて、目の前のことに全力で取り組んでいくことがまずあって、その先にあるかもしれないという感じですね。

――では3年後、どういう選手になっていたいというイメージはありますか?

 レギュラーで試合に出続けていたいですし、サポーターから認められている選手になっていたいですね。1対1では仕掛けていける選手でありたいし、守備では絶対に目の前の相手に負けない選手でいたい。海外(移籍)はまだ考えていないというか、想像もつかないですね。まだまだ試合に出ている数も少ないですから、一歩ずつやっていこうと思っています。

 疾風のようなオーバーラップと、対面の相手と繰り広げるデュエル(1対1の競り合い)の強さが魅力のファイターだが、藤谷壮の思考法は至ってマイペース。周りの評価が先にきて、上のレベルに放り込まれて揉まれる中で少しずつ力を高め、また周りの評価が上がって上のレベルに放り込まれる。そんな繰り返しの中で、少しずつ力を蓄えてきたサッカー人生だったと言える。

 東京五輪が来る前に、また次のレベルへ放り込まれているのではないかとも思っているのだが、本人が見ているのは上のステージではなく、あくまで足元。野心満々の選手もいいが、こういう情熱の燃やし方をする選手がいてもいい。そのスペシャルなマイペースには、独特の頼もしさもあるのだ。

藤谷 壮(ふじたに そう)

【写真:川端暁彦】

1997年10月28日生まれ、兵庫県出身。178センチ、62キロ。北五葉SCから、ヴィッセル神戸U−12に加入。その後U−15、18と下部組織を経て、2016シーズンよりトップチームに昇格した。高い身体能力を生かした攻撃参加が持ち味のサイドバックで、17シーズンは公式戦でも出場機会を増やしている。5月に行われたU−20ワールドカップのメンバーに選出され、2試合でフル出場を果たすなど、日本代表として世界の舞台に立った。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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