松井稼頭央から見える現役へのこだわり 2軍でのプレーも「楽しいですよ」
『絶対にやりたい』という心持ち
6月26日のオリックス戦では3年ぶりのショートにつき、併殺打を完成させた(背番号7が松井稼) 【写真は共同】
縁あって楽天の取材をして3年目になるが、白状すると彼の持つ「オーラ」に気おされるので、ちょっとしたぶら下がりや囲み取材以外、ほとんど話したことがない。これまでさまざまなスポーツのエリート選手を取材してきたし、野村克也元監督にもこの1年で2度ほど膝をつき合わせてインタビューをした。誰であろうと過剰な緊張はしない性質なのだが、稼頭央だけはクワッとした眼差しを向けられると、蛇ににらまれた蛙のように固まってしまうのだ。
とはいえ、私もプロのライターだ。この原稿の依頼もあって、今季は何度となく本人に一人でぶら下がり取材を試みた。勇気の限りを振り絞ったが、録音した音声を聞き返すと、確かに優しい声できっちり応えてくれているのがわかる。見た目やオーラに惑わされていたことを深く反省した。
そんな稼頭央が、試合後のぶら下がりで饒舌(じょうぜつ)に語っていたことがあった。8月初めのこと。「現役続行の意思」が報じられ、これについて尋ねた時だ。
「意思っていうかね…」
そう笑うと、「自分が来年も現役をしたいという気持ちが強いだけですよ。そう言ったところで、続行できるものでもないと思いますしね。こうしてやらせてもらえる環境があるのはありがたいです。シーズン中は、いろんなことがあるわけじゃないですか。それでも、気持ちだけは『絶対にやりたい』という心持ちでいたいと思ってるんです。自分の体調もいろいろ出てくるとは思いますが、走ることだけは怠らないようにしてます。自分の身体と相談しながら。走れるうちは、プレーできると言い聞かせて」。
2軍の試合で、軽やかに背走しながら華麗にアウトを奪っていた稼頭央。どこか少年のようでフレッシュにも見えたのは、ストッキングを見せるオールドスタイルにあったかもしれない。初めて自然に声をかけることができた。尋ねると、「2軍ではみんなこれ(オールドスタイル)なんです」との回答。野球は楽しいですかと続けて尋ねると、「楽しいですよ」と目尻に皺をつくった。まだまだ、彼がプレーする姿を見ていたいと改めて思った。