プロ挑戦を決断した小さな高校生右腕 148キロの速球と気持ちの強さが武器

週刊ベースボールONLINE

入学時の体重は50キロほど

プロ挑戦の意志を固め、夏の大会後も精力的にグラウンドで汗を流す市西宮高の山本 【写真:BBM】

 身長こそ170センチに満たないが投げっぷりの良さが魅力で、ストレートは150キロに迫る。さらに制球力、変化球のキレに加えてもともと二塁手だったこともあり、けん制やフィールディング能力も高い。その山本拓実(市西宮高)の最大の武器は気持ちの強さだ。

「いいバッターは絶対に自分より体が大きいと思うんですけど、そういうバッターにも屈することなく向かっていけるところが一番のアピールポイントです」

 吉田俊介監督も「どんな相手でも向かっていく姿勢」を“いの一番”に挙げていた。

 野球歴は小学校1年のときに入った仁川ユニオンズからとなっているが、もう3歳から父の影響で野球のトレーニングを始めている。父は大学まで野球を続けると同時に、トレーニング方法についても熱心に研究。そのノウハウをもとに幼い息子と4歳上の姉を公園に連れ出した。そのころから体づくりを行った成果もあり、肩、ヒジはもちろん、故障らしい故障はなく、手首は内側に曲げるとすべての指が腕につくほど柔らかい。

 高校入学時の球速は120キロ前後で体重は50キロをわずかに超える程度。食べることは得意ではなかったそうだが、1日コメ6合を平らげ2年半で20キロの増量に成功。投手としても冬を越すたびに大きく成長した。1年の冬はしっかりメニューをやり切って球速を伸ばし、2年の冬はそれだけでは足りないとの思いからトレーニング法を自分で調べ、ジャンプ系、スクワット、パワー系のトレーニングを多く取り入れた。

 山本自身の言葉で表現すると「1年目はがむしゃらに、2年目は考えて」。冬の期間でも感覚が鈍らぬよう週1回はブルペンに入り、年間を通してバランス感覚を養うトレーニングと体幹トレーニングにも並行して取り組んだ。現在の太もも周りは60センチ。入学時が52センチで冬を迎える前が55センチだったから、この冬の成果がいかに大きいかが分かる。2年のときにはいていた夏服ズボンが入らず、最終学年にして3サイズ大きいものを購入したほどだ。

自信となった春王者との互角の勝負

体を目いっぱい使ったフォームから最速148キロの速球を投げ込む 【写真=太田裕史】

 高校生活最後の冬で球速はさらに伸び、変化球の精度や安定感も増した。受ける捕手もボールが全然違うと証言する。単なる好投手からプロ注目投手へレベルアップすると、吉田監督のもとに思いもよらぬ人物から連絡が入った。電話の向こうにいた相手は大阪桐蔭高の西谷浩一監督。面識はなかったが山本の評判を聞きつけ、練習試合を申し込んできたのだった。

 センバツを制し、近畿大会でも優勝と公式戦16連勝中だった横綱を相手に、山本は7回3安打6三振。味方の失策絡みで3点を失い試合には敗れたが、春の日本一チームと互角以上に渡り合った。

「いくら大阪桐蔭でも自分の思ったとおりの球が投げられたら大丈夫と分かりました。大阪桐蔭に投げた経験があったので、それ以降は怖いものなしになれたと思います」

 集大成となる最後の夏には新たな武器を携え臨んだ。春はストレート主体の押すピッチングだったが、「それは対応されていると思ったので、春から夏にかけて縦の変化を覚えました」。春の地区大会で何球か投げただけだったというチェンジアップを強豪私学相手に使えるレベルにまで磨き上げ、縦のスライダーも習得。春はほぼカーブとスライダーでの組み立てだったが、縦の変化が加わった。それでもやはり生命線はストレート。

 山本がベストボールに挙げたのは兵庫大会2回戦・県伊丹戦の初回の第1球。

「試合が始まっての初球で自分の印象が全部決まると思っているので、夏の1球目は自分の中では完璧だと思ってます」

 外角いっぱいに決まったストレートで幕を開けると、5回2死までノーヒットピッチング。この試合で最速148キロを記録した。その後、準々決勝でセンバツ4強の報徳学園に延長10回1対2でサヨナラ負けで、最後の夏を終えた。

 進路については大学進学かプロ挑戦か、引退してもまだ迷っていたが8月末に決断。9月上旬にプロ志望届を提出した。

「自分はプロに行っても167センチのピッチャーって最初は絶対に言われると思うんですけど、それを気にされないぐらいのピッチャーになりたいです」

“小さな大投手”ではなく“偉大な大投手”を目指す。

(取材・文=小中翔太 写真=石井愛子)
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