最強ロマゴンの“限界”を見た夜 30歳の元王者にかつての面影はなく

杉浦大介

ボクシング界における不変の事実

ロマゴンの行く手にはいばらの道が広がる。待望された井上との一戦はもはや現実的ではない 【Photo by Jeff Gross/Getty Images】

「私たちはパンチを交換し合ったが、彼のパンチはよりハードだった。2度目のダウンの際は深いダメージを受けたが、大丈夫だ」

 試合後、広報を通し、ゴンサレスのそんなコメントが伝えられた。元王者はすぐにリングを下り、後に担架に乗せられて病院に運ばれる生々しい映像もソーシャルメディア上に出回った。“あくまで大事をとっての検査のため”という注釈がついていても、痛々しさは消えなかった。

「(ゴンサレスのキャリアが)これで終わりだとは思わない」

 全体会見の際、K2プロモーションのトム・ローフラーはそう語った。しかし、例えまだ戦い続けるとしても、ゴンサレスの行く手にはいばらの道が広がっているのだろう。同じ相手への2連敗は痛恨。待望されてきた井上との一戦はもはや現実的ではなく、例え実現してももう“ドリームマッチ”ではない。

 4階級目のスーパーフライ級はやはり許容範囲を超えているように見え、トップファイターの誰と戦っても苦戦は必至。何より、小柄な身体で2005年からハードに戦い続け、明らかに衰えの時期を迎えたようにも思える。この日の動き、倒され方を見て、“限界”を見たファン、関係者も少なくないはずだ。
 
「ボクシングを見て、罪悪感を感じる夜がある」

 筆者が翻訳を担当した名王者ロベルト・デュラン(パナマ)の伝記本“石の拳”の中で、そんな一文があったことを思い出した。巨星が倒れる瞬間は常に物悲しく、衝撃は大きい。それと同時に、あまりにも残酷に体にダメージを与え合うこのスポーツを愛し、試合を見て興奮し、歓喜することに罪の意識を覚えてしまう。

 ゴンサレスは紛れもなく現代を代表する名王者であり、そのストーリーを書き留めていくことは同世代の義務でもあった。今回のシーサケット戦が、物語の“最終章”となるのか。そうではなかったとしても、物語は終盤に差し掛かっていることは間違いあるまい。そして、終章は必ずしもハッピーエンドであるとは限らない。ボクシング界の不変の事実にあらためて気づき、今夜、それゆえに私たちも胸に強烈な痛みを感じたのである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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