3年生が残したものを引き継いで――新生・大阪桐蔭が抱く来年への思い

沢井史

能力の高い2年生を支えた3年生

今年の大阪桐蔭は俊足巧打・藤原、投打に潜在能力が高い根尾(写真)、190センチ左腕・横川、本格派右腕・柿木ら2年生の才能ある選手を存在感のある3年生が引っ張っていた 【写真は共同】

 試合後、2年生の選手たち誰もが口にしていた言葉がある。

「もう3年生と野球ができないのが一番悔しい」

 前チームは能力の高い2年生が軸となったチームで、2年生が注目されることが多かった。この秋のU−18日本代表に選ばれた俊足巧打のリードオフマン・藤原恭大、中学時代から名をはせ、打って投げて超高校級の根尾昂、190センチの長身左腕・横川凱、そして今夏の甲子園で見せた最速147キロの速球でさらに株を上げた柿木……。挙げだすとキリがない。だが、そんな中でも最終的にチームの軸となったのは3年生だった。

 キャプテンの福井は言うまでもないが、安定感が日ごとに増したエースの徳山壮磨は大黒柱だったし、坂之下晴人、泉口友汰の二遊間は鉄壁の守備で何度もピンチを救った。3試合で2度、左翼からの好返球で本塁で走者を刺した山本ダンテ武蔵の存在も大きかった。何より、何かがあればいつも自分たちに寄り添ってくれた3年生の存在がとてつもなく大きかった。

自分たちの良さをこれから磨く

 敗戦の翌日の午後、新チームがスタートした。だが、今まで当たり前のようにいた3年生の姿はもうない。3年生のいないグラウンドに喪失感を覚えながらも、新キャプテンになった中川卓也は懸命に前を向いていた。

「甲子園から帰るバスの中から自分はずっと泣いていたんですけれど、宿舎で3年生の部屋を回って挨拶しに行ったら、どなたにも“お前は悪くない”とか“この悔しさを忘れるな”って言っていただきました。あの試合は一瞬のスキや1球の怖さもそうですが、あきらめないとか、最後までやり切るとか試合を通してあるべき姿の大事さを学びました。今度は自分たちが先輩たちにやっていただいたことを後輩にしてあげる番。3年生から学んだことを後輩に伝えながら、自分たちも強くならないといけないです」

 柿木は先輩の背中が偉大だったことをあらためて知らされた。

「監督の西谷(浩一)先生から、野球ノートに3年生と自分たちの良いところを書き出してみてと言われたんですけれど、3年生の良いところはたくさん出てくるのに、自分たちの良いところはまったく出てこないんです。それぐらい、先輩は自分たちにいろいろなものを残してくれました。特に(同じ投手陣で一緒に練習してきた)徳山さんは、練習で自分がこうやり切る、と決めたら最後までしっかりこなす人でした。そんな徳山さんを見て、自分ももっとやろうって思ってやってきました。これからは自分がやっていかないといけない。自分たちの良さは、これから磨いていかないといけないと思いました」

 副主将になった根尾も続く。

「あの負けは最後に(柿木)蓮が打たれたことも、中川がミスしたことも関係ない。自分たち野手が序盤から打って、流れを作ってあげられなかったからです。でも、最後まで3年生に教えられたことはたくさんありました。新チーム結成時からあの試合まで、1年生で何も知らない自分たちに声を掛けていただいて。福井さんが節々でやってきたミーティングで言ってくれた言葉ひとつひとつが今でも心に残っています。自分は副キャプテンと言う立場になったので、今度は自分が中川と一緒にチームを引っ張っていきたいです」

新チームのテーマは「声と全力疾走」

福井主将からチームを引き継いだ中川新主将。仙台育英戦で負ったケガは大事に至らず、9月中旬の秋季大会の初戦にも出場できそうだ。「声と全力疾走」をテーマに史上2度目の春夏連覇で3年生への恩返しを誓う 【沢井史】

「声と全力疾走」

 中川新主将は現在のテーマをこう挙げる。チームの一体感を図るに欠かせないのは“声”だ。そして常に全力疾走を怠らない。福井のようなキャプテンになりたいとは強く思うが、福井とまったく同じことをすればいい訳ではない。福井の良さをしっかり引き継ぎ、自分で良いと思ったことをどんどん取り入れていくつもりでいる。

 勝ちたい。2度目の春夏連覇を達成したい。その思いはこの夏を経て一層強くなった。でも、その前にまずは足元をしっかり見つめ、固め直す。41人になった1、2年生の大阪桐蔭のサクセスストーリー第2章には、“悔しい”という文字は絶対に記さないと固く誓った。中川には福井から託されたものがあった。それは「63人の力」と書かれたバッティンググローブだ。それを見つめ涙した日も、あの日大舞台に置いてきた悔しさも胸に刻み、今日もグラウンドに駆け出していく。

 そして、誰の心にも宿っている言葉が彼らをさらに大きくしていく。

「連覇をして3年生に恩返しします」

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著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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