レンジャーズが日本人選手と契約する理由 ダルビッシュ移籍も大谷獲りにシフト?

丹羽政善

“鎌ケ谷詣で”の理由は明らか

レンジャーズは大谷の二刀流を事実上容認している 【写真は共同】

 さて、その彼らの目は今、再び日本に向けられている。
 
 5月11日、来日したダニエルズGMは、ジョシュ・ボイドGM補佐らと一緒に、日本ハムの2軍練習施設がある千葉・鎌ケ谷を訪れた。ダニエルズGMは、「練習環境を見に来た」ととぼけたそうだが、視線の先にはリハビリ中の大谷がおり、視察の理由は明確だった。アメリカに戻ってきてからその時の話を聞くとダニエルズGMは、「われわれが訪れることがばれていた。カメラマンも、われわれを狙っていた」と首をかしげたが、案外リークしたのは、レンジャーズではないか。
 
 翌日、彼らが大谷を見つめる写真がスポーツ紙の一面を飾り、彼らの来日は、テキサスの地元メディアだけではなく、全米のメディア、そして、メジャーの他球団が知るところとなった。結果として、彼らが本気であることを、大谷だけではなく、メジャーの他球団にもアピール出来たのである。
 
 その後の展開も異例だった。「ダニエルズらが日本にいるようだが」と地元記者に聞かれると、レンジャーズのジェフ・バニスター監督は大谷を褒めちぎり、二刀流の容認を示唆するような発言さえした。
 
「二刀流をやるとして考えなければならないのは、先発した後の気力、体力の回復にどの程度かかるか、ということだろう。ただ、われわれはア・リーグでプレーしている。ということは指名打者制度がある。それをうまく生かせるんじゃないか」
 
 前任のロン・ワシントン監督(現ブレーブス三塁コーチ)が、「二刀流は無理だろう。リスクを犯すことは出来ない」と全否定したのとは対照的で、大リーグの監督が、日本の球団の選手についてここまで踏み込んだ発言をすること自体、珍しい。「いい選手だと聞いている」ぐらいでかわすか、「移籍する可能性がある選手について、コメントすることはできない」と逃げるのが普通。しかも普段はリップサービスすらしないあのバニスター監督が、そこまで具体的に話したのである。

事実上の二刀流容認が有利に働く?

 おそらく、この一連の動きは、計算されてのことではないか。どんどん話題を提供し、自分たちが真剣であること、また、二刀流ができる環境を整えていることを間接的に大谷に伝えたかった――。実際、彼らは本当に大谷に二刀流をやらせるつもりである。あるア・リーグのスカウトが、こんな話をしていた。

「ウチは投手で、と考えていた。しかし、レンジャーズが抜け出すために、二刀流を売り文句に、という話は入ってきている。契約ボーナスに差がつけられない、マイナー契約しかできない、というルールが適用されれば、条件は横並びとなる。その場合、どう起用するか、といったチームの方針が契約の行方を左右するかもしれない。他にも二刀流を認めるチームが出てくるのではないか」

 移籍ルールに関しては、現在、ポスティングに関して新制度が話し合われているのでどうなるかは流動的だが、現行の2000万ドルという上限は下がる見込み。また、昨年の労使協定で決まった、25歳未満で、プロリーグ所属6年未満の選手に対する契約ボーナスの上限は1000万ドル程度で、マイナー契約しか結べない、というルールに関しても、そのまま適用される見通し。となると、金銭面での差はつきにくく、大谷にとっては起用方針が、一つの大きな判断材料となりうる。

 仮に、田中将大がヤンキースへ移籍した時のように、上限で入札すれば、そのあとは自由交渉――というマネーゲームになったとしても、レンジャーズには余裕がある。ダルビッシュとの再契約を諦めた今、その資金をそのまま使える。彼らとしては、どんな展開にも対応できる。
 
 日本人大リーガー不在は、長く続かないかもしれない。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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