東海大菅生の背番号1が見せた成長 甲子園で生きた清宮らを抑えた自信

楊順行

第一声は「神宮より暑くないな」

甲子園で背番号1を取り戻した東海大菅生の松本投手。西東京大会で日大三や早稲田実の強打線を抑えたことが甲子園でも生きて、初戦の高岡商戦で1失点完投勝利を挙げた 【写真は共同】

“清宮ロス”なんて、関係なさそうだ。怪物スラッガー・清宮幸太郎(早稲田実)のいない夏の甲子園。それでも、連日のように満員通知が出される大盛況だ。で、この日は、西東京大会決勝でその早稲田実を破った東海大菅生の登場である。スタンドは、4万6000の大観衆で埋まった。

 東海大菅生・若林弘泰監督は言う。

「神宮もそうでしょうが、甲子園は高校野球の聖地。いざダグアウトに入ると、神宮よりも1万人以上多い観客には圧倒されました。それでも選手たちは冷静に、“神宮より暑くないな”というのが第一声です。観客の多さにも臆することなく、まず気にしたのが暑さです。私もそれで、落ち着きました」

 なにしろ、高い注目度には慣れている。決勝の早稲田実戦は、清宮フィーバーで3万人の大観衆を集めた。さらにいまの3年生は、清宮が1年生だった一昨年、早稲田実との決勝戦をスタンドで体感している。このときは「完全アウェーの球場の雰囲気に飲まれ」(若林監督)、7回まで5対0とリードしていながら、よもやの逆転負けを食らった。

 だが、この夏は、エース・松本健吾が怪物をヒット1本に抑えたように、清宮熱には感染しなかった。かくして東海大菅生は、過去3年続けて敗れている西東京の決勝を制し、17年ぶり3度目の夏の甲子園にやってきたわけだ。

 それより、と若林監督が続ける。

「西東京の準々決勝では、早稲田実と並ぶ2強と言われた日大三に勝ったんですが、報道などを見ると“日大三、まさかの敗退”。正直ふざけんなよ、と思いましたし、選手たちもそうだったと思います」

 その思いをぶつけるのが、高岡商(富山)との甲子園初戦、というわけだ。

無死二塁で主軸を抑えて無失点

 昨秋、練習試合を2試合行っている両校。そのときは1勝1敗と星を分けたが、この日先手を取ったのが東海大菅生だ。2回、佐藤弘教が土合伸之輔のチェンジアップを左翼スタンドにたたき込む。だがその裏、先発の松本が2死からの連続四球をきっかけに同点打を浴び、試合は振り出しに戻った。

 松本は西東京大会前、不調から背番号1をはく奪されている。「持っているモノはいいけど心が三流」というのが若林監督の評価だが、実はよくなる兆しはあった。投手出身の若林監督によると、「ピッチャーはたとえば、2死から走者を出す、追い込んでから打たれるという、ツメの甘さが大ケガのもと。松本にもその傾向が目立ったんですが、6月の終盤からはそれがなくなってきたんです」。

 それが、強力打線を8回まで3安打無失点に抑えた日大三戦、大胆に内角を使い、2失点で公式戦初完投勝利を挙げた早稲田実戦につながっている。若林監督は「成長しました。任せます」と、一時はく奪していたエース番号を、甲子園では再び松本に託すことにした。背番号1をつけて甲子園で投げるのが夢だった、という松本が発奮しないわけがない。

 1対1で迎えた3回の守りだ。ヒットを浴びた先頭打者に盗塁され、無死二塁のピンチ。だがここから松本は、140キロ台の速球とスプリット、スライダーを武器に、クリーンアップ3人を打ち取って無失点で切り抜けた。こう、振り返る。

「相手は長打力もありますし、怖くない、というわけじゃありません。ただ日大三の櫻井(周斗)や清宮という、日本を代表する打者を抑えたという自信はありました」

高岡商監督も脱帽の集中打

 1点を勝ち越したあとの7回2死二塁では、松本自ら追加点のタイムリー。4対1の9回には、速球派の山田龍聖らから一挙7点を奪い、試合を決定づけた。奥村治の3ランがとどめだった4長短打3四球の集中打には、高岡商・吉田真監督も「これまで、山田の速球はほとんどとらえられていないんですが、東海大菅生の各打者には見事に打ち返してきました」と脱帽だ。

 1失点完投とあわせ、この夏初めてのヒットがタイムリーとなった松本は言う。

「バッティングには自信がないので、今日一番うれしいのが初ヒット(笑)。2回の二死からの連続四球は反省点ですが、3回、無死二塁からクリーンアップを抑えたのは満足のいく投球でした。西東京でたくさんの強打者と対戦してきた経験が、甲子園でも生きていると思います」

 投手を中心とした守りからリズムを作り、攻撃では1、2番が出塁して中軸で返す。松本が完投した守りは無失策で、攻撃では1、2番が計4得点、クリーンアップが計6打点。プラン通りの野球であげた自身甲子園初勝利に、若林監督は「格別な味です」。

 関東勢は、前橋育英(群馬)と花咲徳栄(埼玉)を除くと姿を消したなか、東の二松学舎大付とそろって、東京勢2校が3回戦に進出した。まさか、大阪対決となったセンバツに続いての、東京同士の決勝対決があったりして……。
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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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