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中日・鈴木翔太、プロ4年目の開花
“しなやかさ”は伝説の左腕と同じ衝撃

運命を変えた小学5年時の投手転向

天性のものと称されるしなやかなフォームから、球速以上に速度を感じさせる速球を投げ込んでいく
天性のものと称されるしなやかなフォームから、球速以上に速度を感じさせる速球を投げ込んでいく【写真=BBM】

 野球を始めたきっかけは3歳までさかのぼる。少年野球のコーチをしていた祖父の一直さんからプラスチックのバットとゴムボールをプレゼントされた。社会人野球の強豪・河合楽器の硬式野球部(01年11月に休部)の後援会メンバーだったこともあり、自宅に選手を招くほどの野球好き。「いろいろ教えてもらいました。厳しかったですね。あまりほめてもらえませんでしたけど」。野球が当たり前にある環境で育った。


 しかし、中学1年のときに一直さんが亡くなった。61歳だった。今でも鈴木はマウンドに上がると、必ず行う儀式がある。一度空を見上げて目を閉じる。天国の一直さんを感じるためだ。「これをすると、落ち着くんです」。もちろん初勝利のときも同じだった。


 小学生のときに地域の少年野球チーム「浜北スモールジャイアンツ」に入団した。ポジションはセカンドとショートだった。投手になったのは小学5年。きっかけは6年生のエース左腕から「ストライク入らないから、お前やってくれ」と頼まれたから。こんなにも単純な理由が、その後の運命を変えた。中学に上がると硬式野球チーム「浜松シニア」に所属した。中学2年から伸びた身長は中学3年春に178センチへ。身長の伸びに比例してボールのキレも増した。


 順風満帆に成長してきた鈴木にとって、突然どん底に突き落とされる出来事が起きる。中3の春。突然の肩痛。病院で診察を受けると、医師から「肩が投げるのに向いていない。野球はあきらめたほうがいい」とショッキングな言葉を突きつけられた。診断名は「リトルリーガーズショルダー」。成長期までは上腕骨の端が軟骨でできているため、投球動作で損傷することがある。小中学生に特徴的な症状だ。成人になると軟骨が硬化するため、症状が治まることは多い。


 とはいっても、14歳の春。楽観的に考えることなんてできない。治る保証はどこにもない。あるのはただ痛みだけ。病院から自宅へ帰る車内。母・一重さんから「別の病院を探そう。いくつも探そう。大丈夫だよ」と声を掛けられたが、涙は止まらなかった。チームは大会の真っただ中。申し訳なさと野球ができなくなることへの不安がごちゃ混ぜになった。


 しかし、野球は鈴木を見捨てなかった。たまたま行った近所の接骨院。そこで提案されたのがストレッチだった。するとどうだろう──。肩の痛みは時間とともに消えていった。


「ストレッチもだいぶするようになりましたね。あとは、投げなかったことが大きかったかもしれない」


 何が良かったのかは分からない。ただ、野球をやめずに済んだ。そして、ケガの功名もあった。習慣になったストレッチが生まれもった関節の柔らかさを支え、オンリーワンの腕の振りを生み出すことになる。


 高校生となり、選んだ進学先は聖隷クリストファー高。理由は自宅から通えること。1年秋からエース。県内での知名度が高くなると、練習試合の相手も強豪校が多くなった。2年秋にはあこがれていた横浜高との練習試合で勝利した。最終学年の3年春に右ヒジを痛めても、乗り越えた。次第にスカウトたちの注目を集めるようになった。

教えてもできない腕の振り

 鈴木に出会った野球関係者が必ず口にする言葉がある。


「あれは教えてもできない」


 そう評されるのは腕の振り。中田宗男スカウト部長は初めて鈴木を見たときのことが忘れられない。


「最初にフォームを見たときは、今中(慎二)と同じくらいの衝撃を受けた」


 左右は違うが、しなやかなフォームからの真っすぐとカーブで竜の歴史に輝かしい記憶を刻んだ伝説の左腕を引き合いに出すほど。しかし、本人はずっとピンとこなかった。


「自分でも何で『しなやか』って言われるのか分からない。誰にこうしろって言われたわけでもないし、誰かをマネしたわけでもない。たまたまです」


 ピッチャーを始めたのがたまたまなら、誰もがうらやむ腕の振りもたまたま。これを“天賦(てんぷ)の才”というのだろう。


 今季13試合目の登板となった7月23日の広島戦(マツダ)で4回途中にKOされ、2軍行きを命じられた。「頑張るだけですよ」と語った鈴木は、再昇格後の8月8日の広島戦(ナゴヤドーム)で6回まで許した走者はエラーでの1人という、あわやノーヒットノーランの好投。結果は7回1失点で勝敗こそつかなかったが、存在感をアピールした。


 失敗しても這い上がればいい。まだまだ完成形は先にある。その未来に誰もが夢を見る――。

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