作新の夏連覇を阻んだ盛岡大付の調整法 “気感動”をテーマに本領発揮

楊順行

積極的なスイングで栃木7連覇

1回戦の盛岡大付戦に1対4と敗れて、夏連覇がついえた作新学院 【写真は共同】

 ゲームセット。力投を続けた大関秀太郎に、「ナイスキャプテン」と声をかけられ、作新学院(栃木)主将・添田真聖は思わず泣いてしまった。U−18日本代表・1次候補の鈴木萌斗とともに、昨夏優勝の数少ない経験者。だが今チームには、優勝の立役者だったエース・今井達也(埼玉西武)や、3本塁打したスラッガー・入江大生(明治大)のような飛び抜けた選手はいない。それでも、「目立つ選手がいないなか、全員で戦えるのがこのチームの特長」(小針崇宏監督)だ。

 なるほど、栃木大会ではチーム打率3割9分3厘、1試合平均9得点以上と打線がつながっている。春の県大会決勝では、白鴎大足利の緩急ある投球に4安打で完封負け。これで「打撃が課題と気づいたのではないか。意識が変わり、1球に対する集中力が増した」と小針監督が語るように、それ以降甘い球を逃さない積極的なスイングを徹底するようになる。その成果が、夏の栃木7連覇だ。

同点打を生んだノーサインの三盗

 対する盛岡大付(岩手)も、打撃には自信を持っている。岩手大会では作新同様、1試合平均9得点。それが昨夏、今春に続く、岩手では初めての3季連続出場につながった。目を引くのは、4本塁打の植田拓を筆頭に、チーム10本塁打の長打力。これは花巻東に大谷翔平(北海道日本ハム)がいた時代、「2死からでも長打2本で点が取れる攻撃」を求めてからの伝統といえる。さらに今チームは、センバツベスト8で敗退後、外野の前にちょこんと落とす「軽打練習」にも取り組み、岩手大会では打率3割9分5厘という高いチーム打率を残している。

 さらに、関口清治監督。「”気感動”というのがチームのテーマ。日常からゴミが落ちていることに気づき、片付けようと感じ、実際に動く。これは、野球にも通じることです」。

 それが現れたのが、作新に1点を先制された2回の攻撃だ。2死一、二塁から、二塁走者の小林由伸が、スルスルと三盗に成功。臼井春貴のヒットで盛岡大付が同点に追いつくのだが、「あの三盗こそ、相手投手が無警戒だと”気づき、感じて”動いたんでしょう」と、関口監督はノーサインだったことを明かす。

 そして5回には、9番・臼井からの4長短打で3点の勝ち越しだ。

甲子園決定後に酷なトレーニング

 実は盛岡大付、甲子園に出場するときの調整方法を昨年から変えている。

「過去、打力に自信を持っていたチームでも、甲子園に来たら思うように力を発揮できなかった。振り返ると、県大会の疲れが出ていたのではないか、と。だから出場が決まったあと、バッティング練習よりもトレーニングを優先してきたんです」(関口監督)。

 昨夏の甲子園3試合での28得点は、県大会中に目減りしていた体力をリカバーした成果ともいえる。

 今年も同じ調整で臨んだ。出場が決まると、甲子園入りするまで、岩手大会の期間中に二の次だったトレーニング、走り込みをみっちり。選手には酷な期間だが、「普段の練習は甲子園に行くためだけじゃない。勝つためだ」というモチベーションがそれに耐えさせた。作新・大関が「調子は悪くなかった。だけど、甘い球はすべて痛打される」と評した5回の勝ち越し劇には、そういう下地がある。

 逆に3点を追う作新は、平松竜也を打ちあぐんだ。「相手打線はストレートに強い」というバッテリーの分析で、スライダーとチェンジアップ主体の投球。変化球に絞れば、140キロ前後のインコースまっすぐに詰まらされ……と、なかなかヒットが出ない。平松によると、「相手は神経を使う打線。変化球主体の投球で終盤は体力がギリギリでしたが、3点のリードが励みになりました」。終わってみれば、9四死球を与えながら9奪三振、被安打わずか2で1失点完投勝利――。

「大偉業に挑戦できたことが素晴らしい」

 作新も、ヒットは少ないながら毎回のようにチャンスはあった。たとえば9回には、2死から四死球3つで満塁と、一打同点の場面も作った。だが、キャプテン・添田がネクストバッターズサークルで見守るなか、相原光星の打球は右翼手のグラブに収まる。冒頭、添田が涙ぐんだ場面はここだ。

 だが、試合後の添田の言葉がなかなかいい。

「夏連覇ができなかったのは悔しいですが、栃木の夏を7年続けて優勝し、夏連覇を目指す権利を得たことは素晴らしいと思っています」

 ちなみに――作新学院は過去、春夏連覇を達成している。春夏連覇と夏連覇を果たしているのは、長い高校野球の歴史で中京商(現中京大中京・愛知)ただ1校。それほどの大偉業に挑戦できただけでも、確かに素晴らしいじゃないか。
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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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