侍ジャパン稲葉新監督への期待と懸念 強化本部の新設は明るい材料

中島大輔

山中正竹強化本部長の手腕に期待

山中正竹強化本部長(左)と握手する稲葉新監督 【写真は共同】

 その点で、新設される強化本部は明るい材料だ。バルセロナ五輪で監督として銅メダルを獲得した山中正竹氏が強化本部長に就任し、チーム編成や情報収集、医科学的サポートなどからチームを支えていく。山中氏にはじっくり取材したことがあるが、リーダーシップと聡明さ、人脈や国際経験を兼ね備え、侍ジャパンにとってこれ以上ない人物と言えるだろう。前回のWBCまでは現場に一流選手や指導陣がそろっていたのに対し、編成や強化サポートはあまりにも不十分な体制だっただけに、強化本部の新設は評価できる。

 一方、稲葉新監督のお披露目となった7月31日の会見では運営のお粗末さが目に付いた。報道陣が100人以上集まったなか、代表質問を除き、質問の機会を与えられたのは筆者を含めてわずか3人。「時間の都合」と説明されたが、ジャーナリストたちは聞きたいことがたくさんあったはずだ(もっとも、質問機会に挙手した記者の数は限られていたが)。より多くのスポットライトを稲葉新監督に当てるチャンスであり、記者との質疑応答に十分な時間をとるべきだった。

 なぜなら本来、侍ジャパンの目的はただ国際大会を戦うだけではないからだ。プロアマの一体化、野球人気回復、野球の国際化など、グラウンド上の戦いの向こうには多くの使命を担っている。

志を高く持ち世界の野球に目を

 それらの点を総合的に考えると、昨日の会見で4人の登壇者(稲葉監督、侍ジャパン強化委員会の熊崎勝彦会長、井原委員長、山中副委員長)が「東京五輪での金メダル獲得」ばかり口にしたのは残念だった。国内的に東京五輪は極めて大事な大会だろうが、会見で稲葉監督も語ったように、メジャーリーガーの参加は考えにくい。誤解を恐れずに言えば、世界の野球という視点で見たとき、東京五輪は大して重要な大会ではないのだ。

 2013年WBC後に常設化された侍ジャパンの目標はあくまで「世界一」のはずであり、そこにたどり着ける機会は東京五輪の先にある2021年WBCだ。自国開催の五輪に標準を絞ったなどと小さなことを言うのではなく、もっと志を高く持ち、世界の野球に目を向けてほしかった。

 日本球界のさまざまな障壁を壊すために常設化された侍ジャパンは本来、それほど大きな理念を持っているはずだからである。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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