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ロンドンに根付くパラへのリスペクト
熱狂を文化に転換させる仕組みづくり

日本選手が驚く盛り上がり

パラスポーツが文化として根付くロンドン。約28万枚のチケットが売れ、かつてない観客数の規模となった
パラスポーツが文化として根付くロンドン。約28万枚のチケットが売れ、かつてない観客数の規模となった【Getty Images】

 大きな盛り上がりを見せたロンドンパラリンピックから5年。同地で、7月14日から23日にかけて、第8回世界パラ陸上競技選手権が開催された。


 イギリスはパラリンピックのルーツを持つ国だ。1948年、ロンドン郊外のストーク・マンデヴィルにおいて初めて国際的な障がい者スポーツの競技会が行われ、後にパラリンピックへ発展したことから、パラスポーツが文化として社会に根付いている。


 10日間の日程で行われた今大会のチケットセールスは約28万枚。1994年にベルリンで第1回が開催され、まだ歴史の浅い世界パラ陸上だが、これほどの観客数は今までにない規模だという。


 大会の性質や開催期間の違いから単純比較はできないが、日本国内最高峰の日本パラ陸上競技選手権で、1日あたりの観客数は約3000人。健常者の日本陸上競技選手権でも約3万人前後ということを考えると、桁違いの動員数であることが分かる。

競技後の選手にサインを請う子供たち
競技後の選手にサインを請う子供たち【写真:吉田直人】

「ロンドンでの試合はワクワクします。盛り上がると思いますよ」


 大会前にこう語っていたのは、昨年のリオデジャネイロパラリンピック男子走り幅跳び(T42/下肢切断など)銀メダリストで、今大会でも同種目で銀メダルを獲得した山本篤(スズキ浜松AC)だ。その言葉通り、地元の人々が多数を占める観客席からは他国の選手に対しても大歓声が送られ、レースを終えた日本選手たちからは一様に驚きの声が聞かれた。


「ここがパラの原点だと思うし、来られて良かったと思います。雰囲気は最高。日本では今のところ、ここまでの盛り上がりはない。(健常者の)陸上でもないんじゃないでしょうか。文化的にも価値のある大会という位置づけになっているんじゃないかな」


 こう振り返ったのは、女子400メートル(T47/上肢切断など)で銅メダルを獲得した辻沙絵(日体大院)。男子5000メートル(T11/視覚障がい)で銅メダルを獲得した和田伸也(賀茂川パートナーズ)は、視覚障がいの最も重いクラスだが、「今までで一番観客が入っている世界選手権じゃないでしょうか」と、耳に吸い込まれる声援で観客数の規模を感じ取っていた。

一体感が生み出す好循環

会場のスクリーンには競技クラスを説明するグラフィックが表示される
会場のスクリーンには競技クラスを説明するグラフィックが表示される【写真:吉田直人】

 会場では、観客に対する“仕掛け”と“配慮”が施されていた。スクリーンに競技の合間をぬってスタンドの映像が映し出され、観客がポーズを取るなど、プロスポーツのような演出もそのひとつ。日本の陸上大会ではまず見られないが、スタンドの熱量は選手たちにも伝播する。


 他方で、競技中の配慮にも抜け目はない。競技の前に行われる選手紹介を終えると、スクリーンには障がいの部位と程度が色とグラフィックを用いて表示される。観客は都度、選手たちがどのような障がいと向き合って競技を行っているのかを確認しつつ、観戦することができる。


 また、重度の視覚障がい者による跳躍、投てき競技では、『コーラー』と呼ばれるサポートスタッフが発する声や手拍子を頼りに競技が実施されるため、アナウンスに従って大観衆は静まり、真剣な眼差しで競技をみつめる。試技が終われば、すぐさま大きな拍手が降り注ぐ。


 障がいの程度により競技クラスが多岐に渡るパラ陸上だが、観客が置いていかれることなく観戦を楽しみ、声援を受けた選手たちは、自らのパフォーマンスでそれに応えていく。この好循環が、28個もの世界新記録が誕生するという好結果の原動力の一つになったとも言えるだろう。

吉田直人

1989年千葉県生まれ。大学時代は学内のスポーツ機関紙記者として、箱根駅伝やインターカレッジを始め各競技を取材。2016年、勤務先の広告代理店を退職後、フリーランスライターとしてスポーツを中心に取材を行っている。

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