都市対抗を制したちびっ子打線の積極性 NTT東日本に36年ぶりの黒獅子旗

楊順行

試合序盤はルーズヴェルト・ゲーム

36年ぶり2回目の都市対抗制覇となったNTT東日本 【写真は共同】

 いい投手。食らいついて、なんとかセンター中心に打ち返す――NTT東日本(東京都)・下川知弥がとらえた日本通運(埼玉県さいたま市)・阿部良亮の高めフォークは、バックスクリーン左に飛び込んだ。4対4の7回、勝ち越しとなる3ラン――。

 第88回都市対抗野球は、関東勢同士の決勝となった。日通が初回、関本憲太郎の適時打で先制すると、NTTは2回に越前一樹の2ラン、3回には伊藤亮太と2本のアーチで逆転する。日通の先発は、西濃運輸(岐阜県大垣市)との準々決勝を無四球で完封した左腕・高山亮太だが、いずれも甘くなった変化球を完璧にとらえた。日通が3回、北川利生、関本の連続適時打などで4対3と再逆転すると、NTTも5回、加藤孝紀(明治安田生命から補強)の一発で同点。活発な打ち合いの前半は、ルーズヴェルト・ゲームと言ってもいい。

戦力充実の関東勢チームの激突

日本通運は準々決勝の西濃運輸戦で無四球完封を記録した高山が先発したが… 【写真は共同】

 昨年ベスト8のNTT・飯塚智広監督は年頭、「今季、本気で日本一を狙うぞ」と宣言した。むろん、日本一は毎年の目標ではあるのだが、就任4年目、積み重ねてきたことにこれまでにない手応えを感じていたからだ。事実今大会は、昨年の準々決勝でサヨナラ負けしたトヨタ自動車(愛知県豊田市)に雪辱するなど、3試合を二ケタ安打で勝ち上がる。東芝(神奈川県川崎市)との準決勝は、0対0の9回にサヨナラ勝ちと、投手陣が力を見せた。

 日通も、充実している。昨年の都市対抗は2回戦で敗れたが、日本選手権は頂点まであと一歩の準優勝。今季もJABA九州大会で優勝するなど好調で、南関東第1代表として本大会出場を決めたとき、藪宏明監督は「オマエたちは強い。日本一になれる」と選手をたたえている。パナソニック(大阪府門真市)との2回戦は、阿部が大会史上5人目、東京ドームでは初のノーヒット・ノーランを達成し、準々決勝は高山が完封。こちらも投打ががっちりかみ合い、日本一に王手をかけていた。

明暗を分けた試合後半の心理

7回に勝ち越し3ランを放ったNTT東日本・下川 【写真は共同】

 同点のまま、5回終了のインターバル。飯塚監督は、ナインにこう呼びかけた。若い選手がどうもふわふわしている、ベテランがなんとか落ち着けてくれ――2万に及ぶ自社の応援団で、オレンジに染まるスタンドだ。しかも、決勝。独特の雰囲気に、若手は地に足がつかない。現に3回には、堅守を見せてきた3年目のショート・福田周平のエラーが失点につながった。主将の越前、北道貢ら、2011年都市対抗決勝の経験者が、こう呼びかける。ここからが、もう1回プレーボールだ――。

 その間、日通の藪監督にはちょっと悔いがあった。先発・高山の交代機を誤ったか……。4回、無失点に切り抜けはしたが、相手打線にとらえられていた。なんとか5回まで、という継投プランにこだわりすぎた結果が、先頭・加藤に浴びた同点アーチである。追いついたNTT、追いつかれた日通。勝敗の天秤は水平に戻ったが、チームの心理には微妙に傾斜があった。

 そして、7回。6回裏の攻撃では、仕掛けたヒットエンドランが併殺に終わった日通が2死一、二塁のピンチ。ただ、ここを抑えたら流れがくる――そう告げた藪の勝負師の感性を砕いたのが冒頭、下川の3ランだった。そしてNTTは9回にも、四球と敵失などをからめて決定的な3点を挙げることになる。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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