リリーフ分担制で負担を軽減し勝利を追求 吉井コーチの指導スタイル(3)

菊地慶剛

勝つことも大事、選手も大事

日本ハム中継ぎ陣の一角を担う谷元。今季は通算100ホールドを達成するとともにオールスターにも出場した 【写真は共同】

 ここ5年間でリーグ優勝した計10チームのうち、リリーフ防御率がリーグ1位だったチームは7チームにも及ぶ。それだけ強固なリリーフ陣を築き上げることが優勝への近道になっているとも言える。

 一昨年の福岡ソフトバンク、昨年の北海道日本ハムと2年連続でリリーフ防御率を両リーグトップに導いた吉井理人コーチは2008年に日本ハムで投手コーチに就任して以来、自身が現役時代に米国で実体験してきたMLB流の分担制を採用しているという。

「自分のもの(スタイル)を持っていたというよりも、米国のブルペンのかたちを日本に持ってきてうまくいくのかな、という部分がありました。最近では米国でも日本のプロ野球のように(起用法が)分かりづらいチームが出てきているんですけど、中継ぎの役目を明確にしてあげて、そこに準備をしてもらう……。こちら側が“いくぞ”と思った時に、そのピッチャーが“オレの出番や!”と思うという、両者の意識が一致したかたちで投げられるような状況をつくってあげたいなと思ってやっています。

 チームが勝つことも大事ですけれども、その大前提にあるのが選手が少しでも長くプロ野球で活躍できるように……。ということを考えると、このかたちが一番いいのかなと思っています」

 吉井コーチが意図していることは、頼れるリリーフ投手をフル回転させるのではなく、各投手の役割を明確にし、リリーフ陣全体にバランス良く登板機会を与えることで、個々の負担を減らそうとしているのだ。それにより登板過多や負傷を抑えることにつながり、選手寿命を延ばすことができるというわけだ。

若手を育てるのは「場数」

 現在の日本ハムでも分担制が機能している一方で、吉井コーチは現状に満足しているわけではない。

「(分担制は)今のところうまくいっていると思うんですけれども、もうちょっと改良というか、考えなくてはいけないのは、ファイターズのリリーフ陣はAチーム、つまり勝ちパターンで投げるメンバーがここ何年もほぼ変わっていないんです。そこを脅かす存在になる若手も、試合のいい場面で投げないと実力が上がってこないので……。いくら負け試合で好投し『試合は負けているけどチームには貢献しているんだよ』と説明しても、緊張度が違うじゃないですか。どうやって(若手に対し)場面をつくっていくかというのが難しくなってきますね。

(若手を育てるのは)場数ですね。しかもある程度のプレッシャーがかかっている場面での場数です。敗戦処理だけでは決して成長しないと思っています。そこはうまくAチームの疲労度に合わせて、(若手に)『今日はお前にここを任せたぞ』というのができれば一番いいのかなと思っているんですけどね」

 ただリリーフ投手起用について最終決断を下すのは、投手コーチではなく監督だ。特に今シーズンのように不振が続いている場合、どうしても目先の勝利に固執してしまいがちだ。その中でどうやって監督と相談しながら、無理のないかたちでリリーフ陣を回していくのかも、投手コーチの手腕にかかっている。

「例えば今年のファイターズのように負けが込んでしまうと、終盤のためにAチームに余力を残させておくというのはできないですよね。どうしても挽回していかないといけないので、目の前の試合に勝つために、ちょっと無理して1点差で負けていてもAチームを使ってしまうという展開になってしまうと思います。こういう状況の時は、このやり方は難しいですよね」

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著者プロフィール

栃木県出身。某業界紙記者を経て1993年に米国へ移りフリーライター活動を開始。95年に野茂英雄氏がドジャース入りをしたことを契機に本格的にスポーツライターの道を歩む。これまでスポーツ紙や通信社の通信員を務め、MLBをはじめNFL、NBA、NHL、MLS、PGA、ウィンタースポーツ等様々な競技を取材する。フルマラソン完走3回の経験を持ち、時折アスリートの自主トレに参加しトレーニングに励む。モットーは「歌って走れるスポーツライター」。Twitter(http://twitter.com/joshkikuchi)も随時更新中。

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