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不整脈で倒れた20歳のアヤックスMF
逸材に訪れた突然の悲劇に、ファンは落胆

練習試合中に不整脈で倒れたヌーリ

ヌーリ(左)はブレーメンとの練習試合中に不整脈でピッチに倒れ込んだ
ヌーリ(左)はブレーメンとの練習試合中に不整脈でピッチに倒れ込んだ【Getty Images】

 オランダ中がショックを受けている。


 テレビでニュースを知らせるベテランレポーターやアヤックス番記者の声も震えている。現地時間7月8日、ブレーメンとの練習試合中、不静脈でピッチの上に崩れ落ちたアブドゥルハーク・ヌーリ(20)の容態は一時「安定した」という報が入っていたものの、13日になって「脳の大部分が損傷しており、機能していない。回復の可能性はほとんどない」ということが分かった。ヌーリのサッカー選手生命は断たれた。


 私にとってもヌーリは特別な選手だった。普段なら選手個人に肩入れすることなく、チームとしてサッカーを見ようとしている私だが、ヌーリだけは「この選手を見るためにスタジアムに通いたい」と思っていた。昨季は主にアヤックスのリザーブチームで8番を付けてプレーしていた。夏から秋にかけて、私は片道20キロの距離を自転車で通っていたが、私の心は踊りスキップを踏んでいた。


 当時は19歳。アヤックスの選手としては、そろそろトップチームに定着したい年齢だったが、私は彼がリザーブチームで活躍することに喜びを抱いていた。ヌーリほどのテクニシャンは、5万人以上を収容するヨハン・クライフ・アレーナよりも、2000人しか収容できないデ・トゥコムスト(アヤックスの練習施設)のミニスタジアムの方が、見ていて楽しいのである。「ヌーリにはあと1年、ここにいてほしい」。それが私のワガママな願いだった。


 サッカーの試合そのものを見るなら、スタンドの最上段に座るに限る。しかし、私はヌーリの妙技を見に来たのだから、デ・トゥコムストでは最前席に座っていた。自分から遠い方でヌーリがプレーする時は彼の足元に注目し、彼が手前でプレーする時は視線をチェックした。ヌーリの視線は相手を欺くフェイントとなり、パスは思わぬ方向へ通ってしまうのだ。ミニスタジアムでヌーリを見る楽しみは、この視線フェイエントにあったのかもしれない。

2部のMVPに選出、今季のブレークに懸けていたが――

2部リーグでMVPに選手されるなど、ヌーリ(右)は活躍を見せていた
2部リーグでMVPに選手されるなど、ヌーリ(右)は活躍を見せていた【Getty Images】

 昨季のリザーブチームには多くのタレントがいて、得点力も高かった。ピーター・ボス率いるトップチームが完成品となったのはシーズン後半戦だったから、前半戦はリザーブチームのほうがチームとして形になっていたのかもしれない。


 10月17日のデ・フラーフスハップ戦はとうとう2,068人を集め、リザーブチーム史上初のホームゲーム満員を記録した。昨季のリザーブチームは、フレンキー・デ・ヨング、ドニー・ファン・デ・ベーク、ヌーリが中盤を組んだり、バーツラフ・ツェルニー、マテオ・カシエラ、ペッレ・クレメントの3トップが爆発したり、後にオランダ代表にまで駆け上がるマタイス・デ・リフトがセンターバックにいたりと、心躍るチームだった。


 冬になり私の移動手段は車になった。11月28日に行われたドルトレヒトとのアウェーゲームではパンチの効いたミドルシュートをゴールネットに突き刺した。年が明け、17歳のジャスティン・クライファート、デ・リフトがトップチームに定着し、ヨーロッパリーグ(EL)で活躍を見せた。ヌーリもELのグループリーグで2試合に先発したが、それはアヤックスがベスト32進出を決めた後の消化試合だった。


 今季のオランダ1部リーグは9試合、261分の出場に留まったヌーリだが、オランダ2部リーグでは突出したプレーを見せ、チームもリザーブチームとしては珍しく2位という高順位を記録し、ヌーリ自身はリーグのMVPに選ばれた。だから、「今季は焦らず、来季トップチームで活躍すればいいさ」と私は願っていた。本人は期限付き移籍のうわさを打ち消し、今季、アヤックスでのブレークに懸けていた。


「まだ20歳。これから本当の大きなキャリアが待っていたのに、ここで終わってしまうとは残念」。テレビニュースでコメントするアヤックスファンは本当に悲しそうだ。


 今は何を祈れば良いのだろう。せめて社会復帰できるまでに治ってほしいという願いが適切なのか否か、今は分からない。「#StayStrongAppie」 これがアッピー(ヌーリの愛称)を応援するハッシュタグだ。

中田徹
中田徹
1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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