もはや「神ってない」広島の強さ―― 前半戦独走首位ターンの戦いぶりを分析

ベースボール・タイムズ

不動の同級生トリオと新4番の誕生

4番に座り結果を出している鈴木誠也 【写真は共同】

 不安材料の多い投手陣をカバーしたのが、今や12球団ナンバーワンと言っても過言ではない打撃陣の充実ぶりだ。チーム打撃成績を見ると、437得点は12球団でもダントツで、打率2割7分8厘も12球団トップ。94本塁打、64盗塁は、それぞれ2位だが、セ・リーグでは他を寄せ付けない数字を残している。

 昨季確立した1番・田中広輔、2番・菊池涼介、3番・丸佳浩の同級生トリオは今季も不動で、その中でも特に丸が自身初の3打席連続本塁打を記録するなど、勝負強さが光るリーグを代表するスラッガーへと成長を遂げた。WBCに出場した菊池は、開幕当初は疲労も見られたが、2番打者としての献身的な打撃や、時折見せるここ一番での長打などは健在で、打率も徐々に上昇している。

 そして昨季までは新井貴浩やエルドレッドなどの実績組が任されていた4番の座に、昨季大ブレークを果たした鈴木誠也が定着した。今季は6番からスタートし、主に5番で起用されていた鈴木だが、相手投手の関係やベテランの疲労などを考慮した試合では4番に抜てきされた。当初は「時間をかけての4番育成」の感が強かったが、高打率をキープした上で4番に座った試合でも好結果を残したことから、4月25日からは全試合4番の座を守っている。

控えの充実ぶりと新井の存在感

 上位打線とは対照的に、5番以降は打順を固定せず、相手投手や選手の調子に応じて、柔軟なオーダー編成が目立つ。前述の新井やエルドレッドに加え、松山竜平らのパワーヒッターに加え、安部友裕や西川龍馬ら、機動力もある選手を5番に起用するなど、セオリーにとらわれない采配も見られる。

 特に成長著しいのが安部で、主にサードで起用され、ここまで規定打席をクリアして打率3割をキープしている。8番を打つ捕手には、打力のある会澤翼がレギュラーとして正捕手の座をつかみつつあるが、石原慶幸や磯村嘉孝らも、試合に出れば活躍する場面が目立つ。

 控え選手では、代走、守備固めのポジションで野間峻祥や天谷宗一郎、上本崇司などが存在感を見せ、選手個々の役割が明確になっている。野手陣の層は厚くなり、小窪哲也や新外国人のペーニャ、好調だった堂林翔太が2軍落ちするなど、チーム内での競争は激しい。さらに交流戦から支配下登録されたドミニカ共和国のカープアカデミー出身のバティスタが、プロ初打席から代打で2打席連続本塁打を放つなど、想定外のプラスアルファもあった。

 若手の躍進が目立つ野手陣だが、精神的支柱としての新井の存在も大きい。スタメンの機会は減ったが、5点差を9回に逆転した7月7日の東京ヤクルト戦(神宮)では逆転3ランを放つなど、試合に出ればさすがの働きを見せる。ベンチでは誰よりも声を出すなど、ムードメーカーとしてもいまだ健在だ。その背中を見ている菊池や丸が、オールスターで「新井さんをMVPにしたい」と声をそろえたように、若手からの信頼も絶大なものがある。

「地に足のついた」采配&戦いぶり

 緒方孝市監督を中心としたベンチワーク、特に選手起用の巧みさも、今季の強さの要因となっている。ベテランを休ませつつ、若手、中堅選手を適材適所で起用する選手起用は、時には目先の勝敗にこだわらず、将来を見据えたものも多く見られ、リーグ連覇なら「名将」の評価も得る日も、そう遠くないはずだ。

 昨年の勢いがブームによるものだとすれば、今年は選手、首脳陣ともに「地に足のついた」本物の実力が、チームに備わりつつあることが実感できる。昨季の優勝で自信をつけた選手は、これまで鬼門とされた交流戦でも勝率1位まであと1勝と、失速どころか、連覇へ加速する舞台にしてみせた。

 もはや昨年の流行語は、このチームにはふさわしくない。「神ってない」地力をつけた選手の力が、カープを1979、80年以来となるリーグ連覇、そして日本一に導くことになるはずだ。

(大久保泰伸/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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