ダルビッシュの前半戦はどう見えた? 視点を変えることで気付くエースの価値

丹羽政善

前半戦を終え6勝8敗と負け越すも、投球内容は安定している 【Getty Images】

 春のキャンプのこと――。レンジャーズのダルビッシュ有は、捕手のマスクにカメラを取り付けて、自分のピッチングフォームを捕手目線で撮影しようと試みた。その時はうまくいかなかったものの、4月に入って成功させ、動画を公開している。キャンプにはドローンも持ち込み、自分の投球を空撮することさえ、考えていた。

 投げているのはダルビッシュ本人であり、カメラの位置を変えてもそれは変わらないが、普段目にするのは、センターとバックネット裏からの映像。少しでも視点を変えて見ることで、なにか気付くことがあるのでは、という着想が裏にあった。

立場によって数字の持つ意味が変わる

 話変わって――。

 ダルビッシュは9日(現地時間)、前半戦を6勝8敗、防御率3.49という数字で終えた。代表的な数字をまずは紹介したが、この数字をどう見るか、あるいは、どの数字を見るか、立場が変われば、それらはまるで違ってくる。トレードを軸に考えるだけでも、数字の持つ意味が変わる。

 例えば、今オフにフリーエージェントとなるダルビッシュと長期高額契約をする価値はない。よって、7月31日、午後4時(米東部時間)のトレード期限までに有望選手とトレードし、数年後を見据えた補強をすべし――と訴える人にとって、勝敗は格好の材料だろう。ダルビッシュは5月27日以降、1勝しか挙げておらず、同期間、チームは彼が登板した9試合で1勝8敗。彼は勝てる投手ではない――と論を進めれば、もっともらしく聞こえる。

 ただ、再契約する価値はないから、若手有望株をという理論は矛盾している。そんな投手なら、トレードバリューそのものがないことになる。

 いやいや、やはり5月27日以降、9回先発して、クオリティースタート(6回以上、3自責点以下)を6回も記録している。また、その9試合では、彼がマウンドにいる間、味方の援護が、合計で8点しかなかった。打線の援護があれば6勝は出来たかもしれない。だから、彼には価値がある――と慌ててフォローするとしたら、それはむしろ、「ダルビッシュはやはりチームのエース。再契約すべし」と訴える人たちと評価が近い。

 その再契約を最善の選択肢と考え、向こう何年かは、レンジャーズのエースとして頑張って欲しい、と考える人たちにしてみれば、勝敗など過大評価されたものと映り、やはり、そうした安定感や内容を重視するはずだ。

 以下、8日現在のリーグ記録だが、12回のクオリティースタートは6位タイ。WAR(代替選手に対して、その選手がどれだけ勝ち星を上積みしたか)は3.0で13位タイ。被打率は6月28日のインディアンズ戦と7月4日のレッドソックス戦で上がってしまい、2割2分で19位タイだが、それまではずっと1割台だった。

 また、被本塁打、奪三振、四死球の数など、その投手の純粋な能力を示すとされるFIP(3.78、20位)という指標や、球場の広さを考慮したxFIP(3.83, 21位)、あるいはチームの勝利にどれだけ寄与したかを示すWPA(1.33, 13位)というデータも、ダルビッシュとの再契約を望む人にとっては、主張を裏付ける材料として重要かもしれない。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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