奇跡の復活を果たしたビニー・パジェンサ ボクシング繁栄には最高のヘビー級王者必要

スポーツナビ

事故で首の重症を負いながらも、奇跡の復活を果たしたビニー・パジェンサ(左)。その半生が映画となって公開される 【画像提供:BLEED FOR THIS. LLC 2016】

 プロボクシングの元2階級制覇王者ビニー・パジェンサ(米国)の半生を描いた映画「ビニー/信じる男」が、7月21日より公開される。

 パジェンサは1980年代から90年代前半にかけて、IBF世界ライト級、WBA世界スーパー・ウェルター(ジュニア・ミドル)級の2階級制覇を達成。その直後、交通事故で首を骨折し瀕死の重傷を負ったが、そこから奇跡のカムバックを果たす。名トレーナーのケビン・ルーニーとともに、再び世界王者を目指した。

 この感動の実話が日本で公開されることになるが、それに先がけパジェンサがインタビューに応じた。

事故にあってもチャンピオンになることしか考えなかった

選手生命の危機ともいえる事故に合うが、そこから必死のリハビリでリングに上がれるまで戻した 【画像提供:BLEED FOR THIS. LLC 2016】

――事故で重症を負いながらもボクシングをやめなかった理由は?

 ボクシングは5歳で始めた。モハメド・アリが大好きでね。彼の後を追うようにボクシングをやった。「引退してボクシングのない生活は寂しくないか?」とよく聞かれるけど、5歳から40歳までずっとやってきたから、別に寂しくは感じない。それまで続けられたのは。ボクシングとの相性が良かったこと、そしてボクシングが大好きだったからだ。

 唯一恋しく思うことは、ボクサーに必要な自制心だ。ボクサーとして自分に課さなければいけなかった自制心だね。よくパーティーやカジノに行って有名人たちと楽しんでいたが、試合の数カ月前から控えなければならなかった。今となってはその自制も恋しく思うね。今は何にも縛られていないから。時々、チョコのお菓子を見ると「これは食べちゃダメだ」と思うことがある。すぐに「あ、食べていいんだ」と思うときがあるよ(笑)。

――重症を追うことで、ボクシングに対する取り組みはどのように変化した?

 何も変化していない。事故の前も後も、チャンピオンになることしか考えていない。事故の後もその目標を果たすために母にこう言ったよ。「母さん、チャンピオンになるために死ぬ気でやる」と。それを聞いた母は泣きだした。「母さん、泣かないでくれ。俺はやりたいことをやるんだ。今に見せてあげるよ」と言ったね。強さを保ち、懸命に挑戦し続けて、実現できたんだ。

村田諒太は「最高のボクサー」の一人

――現在のプロボクシング界のスター選手たちを見て、どのように感じる?

 俺はボクシングが大好きだが、UFCのほうが勢い付いている。UFCはいろいろな格闘技の要素が入っているタフなスポーツだけどね。ボクシングが元の力を取り戻すことを期待しているよ。

(特に才能や強さを感じる選手は?)アンソニー・ジョシュア(イギリス)がタイトルを取ったからね。あとはデオンテイ・ワイルダー(米国)だ。彼は大きな嵐を巻き起こすことができる。良いパンチを持っている最高の選手だ。彼は負けたことがない。

 ボクシングの勢いを取り戻すには、米国出身のヘビー級王者が必要だ。この間、デオンテイに会った時に伝えたんだ。「デオンテイ、君ならボクシングを面白くできる。ボクシングを救える」とね。うれしいことに、彼から希望が見える。ボクシングが繁栄してトップにある時はいつも最高のヘビー級チャンピオンが存在する。マイク・タイソン、モハメド・アリ、ジョージ・フォアマンがいた時を見れば分かる。強いチャンピオンがいると、ボクシングの力は強くなる。デオンテイ・ワイルダーはボクシングの勢いをけん引できる。

――日本にはロンドン五輪金メダリストの村田諒太がいる。彼がパジェンサさんのファンだと話していた。

 彼のことは知っているよ。俺のファンだとはうれしいね!
 31歳だったら、まだまだ戦えるさ。俺は33歳の頃がベストだった。常に自分を保ち、強く生きるんだ。言うまでもなく、彼は良いボクサーだから。良いではなく、最高のボクサーだ。

 彼が一番分かっていると思うが、何があっても強く生きることが大事だ。俺が何を言いたいか分かるはずだ。彼の健闘を祈るよ。彼はミドル級でお気に入りの選手になったよ。彼がこれからも多く勝利を挙げる姿を見たいね!

「人生は一度しかない。何が何でも挑戦し続けてほしい」

映画でパジェンサを演じたマイルズ・テラーには「俺自身よりも、俺を良く演じてくれた」と賞賛 【画像提供:BLEED FOR THIS. LLC 2016】

――自身の半生が映画になることに関しての感想は?

 映画の企画を聞いたときは、とにかくスーパーだと思ったよ! パズ・タスティック(※)だね! ハハハ!

 満足のいく作品になったし、クールでとにかく素晴らしかった。(パジェンサを演じた)マイルズ・テラーはとてもよく演じてくれた。幸せだったよ。俺自身よりも、俺を良く演じてくれたね。ケビンを演じたアーロン・エッカートも最高だ。俺はケビン・ルーニーが大好きだから。良き友であり、最高のトレーナーだった。母親を演じたケイティ・セガール、父親を演じたキーラン・ハインズもとてもよかった。

(※パズ・タスティック=PazとFantasticを混ぜた造語)

――最後に映画を楽しみにしているボクシングファンへメッセージをお願いします。

 映画を楽しんでくれたらうれしい。多くの人にインスピレーションを与えられると思う。無理だと思っていたことに背を向けている人が多くいるかもしれない。考えるばかりで、無理だと思って挑戦しない人が多いだろう。その人々には前を向き、人生で何かを成し遂げるべく挑戦してほしい。人生は一度しかない。何が何でも挑戦し続けてほしい。時間は毎日過ぎるばかりだ。今すぐにしなければならないこと、したいことをするべきだよ。
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