新日本の米国興行は満員札止めの大成功 オメガがUS王者 オカダはV7を達成

高木裕美

米国大会2日間の主役となったオメガ。新設のIWGP USヘビー初代王者となった 【写真:ベースボール・マガジン社】

 新日本プロレスが、米国カリフォルニア州ロサンゼルスのロングビーチ・コンベンション・アンド・エンターテイメント・センターにて、現地時間7月1日、2日の2日間に渡り「G1 Special in USA」を開催した。

 すでに2日分のチケットが2時間で完売しており、初日は2370人、2日目は2305人と、いずれも超満員札止めの観客を動員。会場は最初から最後まで興奮と熱気に包まれ続け、2日目のリング上で、菅林直樹会長が来年も米国大会を開催することを発表すると、場内からは大歓声が起きた。

グローバル戦略は「大田区総合体育館」サイズでスタート

 5月16日に都内で開催された新日本プロレス・戦略発表会では、株式会社ブシロードの木谷高明オーナーが、「グローバル戦略」の一環として、米国への本格進出を目標に掲げ、来年を目処に現地法人および道場の設立を目指していることを明らかにした。

 米国ではケーブルTVで毎週20万人以上が大会を視聴しており、有料動画配信サービス「新日本プロレスワールド」でも、約5万人の加入者のうち、約1万人が海外の会員とのこと。今年の1.4東京ドーム大会では、当日のツイッターで大会のハッシュタグ「#njwk11」が一時は世界一位に躍り出た上、同大会のメインイベントで行われたオカダ・カズチカvs.ケニー・オメガのIWGP戦は、米国のプロレス業界紙「レスリングオブザーバー」で、満点の5つ星を越える6つ星評価を獲得。そんなもっともホットな団体が生で見られるチャンスとあって、ファンの期待感と喜びが、選手たちの入場時から溢れ返っていた。

 くしくも、日本では直前の6月30日&7月1日に、米国を本拠地とする「世界最大のプロレス団体」WWEが東京・両国国技館で日本公演を開催したばかり。両国の会場では、WWEのストーリーやパフォーマンスを知り尽くした日本人ユニバース(※WWEファンの通称)たちが、選手のコスプレをしたり、グッズTシャツを着たり、お手製のボードを掲げたりしながら、本場さながらのチャントや演出でスーパースターたちを歓迎していた。今回の新日本のロス大会でも、現地のファンには選手のキャラクターだけではなく、ストーリーまで浸透しており、選手の国籍や、元WWE所属といった過去の実績にとらわれることなく、純粋に選手を応援し、試合を楽しもうという姿勢が現れていた。

 今大会の会場は、木谷オーナーいわく「日本で言うと大田区総合体育館くらいのサイズ」。改装される前の大田区体育館は、新日本が1972年3月6日に旗揚げ戦を行った伝説の会場であり、「新日本の原点」という意味でも、今大会は新たな時代へ突入する歴史的第一歩を踏み出した、といえるだろう。

オメガが初代IWGP USヘビー級王者に君臨

 この2日間の米国大会の主役となったのが、新設されたIWGP USヘビー級王座の初代王者となったケニー・オメガだ。

 初代王者決定トーナメントは、2日間に渡り、8選手参加で開催された。1回戦では、「ベルトをロスのゴミ箱に捨てて帰る」と予告していた内藤哲也が、石井智宏に敗れる波乱の展開。日本では「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」旋風を巻き起こした内藤の会場人気は米国でも高かったが、それ以上に声援を集めたのがオメガだった。

 1回戦のマイケル・エルガンは、昨年の6.19大阪城ホール大会で、IWGPインターコンチネンタル王座を賭けたラダーマッチを行った相手。あまりにも破天荒なこの一戦も世界的に高い評価を得ており、入場時から「オメガ」コールが圧倒。オメガも花道でのコタロークラッシャーなどの荒技を繰り出し、20分超えの激闘の末に勝利した。

 オメガは2回戦でもジェイ・リーサルの3連続トペスイシーダで、鉄柵に背中を強打しながらも、驚異的なタフネスさを発揮。決勝戦では、今年の4月の「NEW JAPAN CUP」1回戦で敗れ、5.3福岡でリベンジを果たした因縁の相手、石井を迎え撃つことになった。

 互いにこの日2試合目でありながら、試合はまさかの30分超え。次々と繰り出されるフィニッシュ級の攻防に、観客が思わず立ち上がり、異様な熱気に包まれた。

 最初の衝撃は18分過ぎ。オメガが場外に設置されたテーブルへ向かって石井を投げようとすると、石井は腕を離されてもなお、ロープに噛み付いて必死に耐えるが、オメガがそれを振りほどき、テーブル上へのドラゴンスープレックスを敢行。頑丈なテーブルが真っ二つに割れる衝撃に、観客も声を失った。なおも両者はヒザ蹴り、エルボー、ラリアットといった打撃技の応酬を展開。先にオメガが石井の得意技である垂直落下式ブレーンバスターを放つと、石井も片翼の天使で仕返し。さらにスライディングラリアットを放つも、オメガはこれをカウント2でしのぐと、リバースフランケンシュタイナー、Vトリガーからのリストクラッチ式片翼の天使で勝負を決めた。

 腰にド派手なUS王座を巻き、Codyやバレットクラブの面々と戴冠を祝ったオメガは、「みんながいるから、今日のショーが成功した。来年の興行はもっと大きくなる」と宣言し、“エース”としてのファンの期待を背負う覚悟を見せた。

 今大会のために新設されたUS王座だが、気になるのは今後の防衛戦の行方だ。すでに新日本にはヘビー級&無差別級だけで4本のシングル王座があり、内藤のようにベルト乱立を反対・危惧する声も出ている。現在のNEVER無差別級王座は若手選手主体興行が発端となっており、IWGPインターコンチネンタル王座も、当初は名前の通り「海外マットにおけるIWGPヘビー級王座への登龍門」というコンセプトであったが、両王座とも、設立当時の趣旨・カラーとはかけ離れてしまっている。

 新日本では過去にも「グレーテスト18クラブ」「IWGP U−30」など、短命で消えた王座もあり、US王座がどんな運命を辿るのかは、初代王者オメガの活躍にもかかっている。7月17日からは真夏の祭典「G1 CLIMAX」も開幕。昨年は史上初の外国人王者に輝いたオメガだが、狙われる立場となった今年は正念場の戦いとなりそうだ。

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著者プロフィール

静岡県沼津市出身。埼玉大学教養学部卒業後、新聞社に勤務し、プロレス&格闘技を担当。退社後、フリーライターとなる。スポーツナビではメジャーからインディー、デスマッチからお笑いまで幅広くプロレス団体を取材し、 年間で約100大会を観戦している 。最も深く影響を受けたのは、 1990年代の全日本プロレスの四天王プロレス。

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