新日本の米国興行は満員札止めの大成功 オメガがUS王者 オカダはV7を達成
米国大会2日間の主役となったオメガ。新設のIWGP USヘビー初代王者となった 【写真:ベースボール・マガジン社】
すでに2日分のチケットが2時間で完売しており、初日は2370人、2日目は2305人と、いずれも超満員札止めの観客を動員。会場は最初から最後まで興奮と熱気に包まれ続け、2日目のリング上で、菅林直樹会長が来年も米国大会を開催することを発表すると、場内からは大歓声が起きた。
グローバル戦略は「大田区総合体育館」サイズでスタート
米国ではケーブルTVで毎週20万人以上が大会を視聴しており、有料動画配信サービス「新日本プロレスワールド」でも、約5万人の加入者のうち、約1万人が海外の会員とのこと。今年の1.4東京ドーム大会では、当日のツイッターで大会のハッシュタグ「#njwk11」が一時は世界一位に躍り出た上、同大会のメインイベントで行われたオカダ・カズチカvs.ケニー・オメガのIWGP戦は、米国のプロレス業界紙「レスリングオブザーバー」で、満点の5つ星を越える6つ星評価を獲得。そんなもっともホットな団体が生で見られるチャンスとあって、ファンの期待感と喜びが、選手たちの入場時から溢れ返っていた。
くしくも、日本では直前の6月30日&7月1日に、米国を本拠地とする「世界最大のプロレス団体」WWEが東京・両国国技館で日本公演を開催したばかり。両国の会場では、WWEのストーリーやパフォーマンスを知り尽くした日本人ユニバース(※WWEファンの通称)たちが、選手のコスプレをしたり、グッズTシャツを着たり、お手製のボードを掲げたりしながら、本場さながらのチャントや演出でスーパースターたちを歓迎していた。今回の新日本のロス大会でも、現地のファンには選手のキャラクターだけではなく、ストーリーまで浸透しており、選手の国籍や、元WWE所属といった過去の実績にとらわれることなく、純粋に選手を応援し、試合を楽しもうという姿勢が現れていた。
今大会の会場は、木谷オーナーいわく「日本で言うと大田区総合体育館くらいのサイズ」。改装される前の大田区体育館は、新日本が1972年3月6日に旗揚げ戦を行った伝説の会場であり、「新日本の原点」という意味でも、今大会は新たな時代へ突入する歴史的第一歩を踏み出した、といえるだろう。
オメガが初代IWGP USヘビー級王者に君臨
初代王者決定トーナメントは、2日間に渡り、8選手参加で開催された。1回戦では、「ベルトをロスのゴミ箱に捨てて帰る」と予告していた内藤哲也が、石井智宏に敗れる波乱の展開。日本では「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」旋風を巻き起こした内藤の会場人気は米国でも高かったが、それ以上に声援を集めたのがオメガだった。
1回戦のマイケル・エルガンは、昨年の6.19大阪城ホール大会で、IWGPインターコンチネンタル王座を賭けたラダーマッチを行った相手。あまりにも破天荒なこの一戦も世界的に高い評価を得ており、入場時から「オメガ」コールが圧倒。オメガも花道でのコタロークラッシャーなどの荒技を繰り出し、20分超えの激闘の末に勝利した。
オメガは2回戦でもジェイ・リーサルの3連続トペスイシーダで、鉄柵に背中を強打しながらも、驚異的なタフネスさを発揮。決勝戦では、今年の4月の「NEW JAPAN CUP」1回戦で敗れ、5.3福岡でリベンジを果たした因縁の相手、石井を迎え撃つことになった。
互いにこの日2試合目でありながら、試合はまさかの30分超え。次々と繰り出されるフィニッシュ級の攻防に、観客が思わず立ち上がり、異様な熱気に包まれた。
最初の衝撃は18分過ぎ。オメガが場外に設置されたテーブルへ向かって石井を投げようとすると、石井は腕を離されてもなお、ロープに噛み付いて必死に耐えるが、オメガがそれを振りほどき、テーブル上へのドラゴンスープレックスを敢行。頑丈なテーブルが真っ二つに割れる衝撃に、観客も声を失った。なおも両者はヒザ蹴り、エルボー、ラリアットといった打撃技の応酬を展開。先にオメガが石井の得意技である垂直落下式ブレーンバスターを放つと、石井も片翼の天使で仕返し。さらにスライディングラリアットを放つも、オメガはこれをカウント2でしのぐと、リバースフランケンシュタイナー、Vトリガーからのリストクラッチ式片翼の天使で勝負を決めた。
腰にド派手なUS王座を巻き、Codyやバレットクラブの面々と戴冠を祝ったオメガは、「みんながいるから、今日のショーが成功した。来年の興行はもっと大きくなる」と宣言し、“エース”としてのファンの期待を背負う覚悟を見せた。
今大会のために新設されたUS王座だが、気になるのは今後の防衛戦の行方だ。すでに新日本にはヘビー級&無差別級だけで4本のシングル王座があり、内藤のようにベルト乱立を反対・危惧する声も出ている。現在のNEVER無差別級王座は若手選手主体興行が発端となっており、IWGPインターコンチネンタル王座も、当初は名前の通り「海外マットにおけるIWGPヘビー級王座への登龍門」というコンセプトであったが、両王座とも、設立当時の趣旨・カラーとはかけ離れてしまっている。
新日本では過去にも「グレーテスト18クラブ」「IWGP U−30」など、短命で消えた王座もあり、US王座がどんな運命を辿るのかは、初代王者オメガの活躍にもかかっている。7月17日からは真夏の祭典「G1 CLIMAX」も開幕。昨年は史上初の外国人王者に輝いたオメガだが、狙われる立場となった今年は正念場の戦いとなりそうだ。