ホスト国ロシア、失意のカザンの夜 コンフェデ杯はグループL敗退に終わる
ロシアでのストレスのない日々
グループリーグ最終戦でメキシコに1−2で敗れ、ロシアは準決勝に進むことができなかった 【写真:ロイター/アフロ】
大会の序盤を過ごしたモスクワのドミトリーホステルには、世界各地の観光客やサポーターが泊まりにきた。そこでフロントとして働く人たちも、例外なく流ちょうに英語を操っていた。しかし、カザンで泊まったホステルはロシア語しか通用しない環境だった。この1泊わずか1000円の格安ホステルは、ドイツ対チリ、メキシコ対ロシアを楽しもうとするロシア人たちで埋まっていた。
私の部屋には1人のコロンビア人、デービッドがいた。コロンビアの大学は学費が高く、どこか無料で航空工学を学べるところはないかと探してみたら、ロシアのサマーラに良い大学が見つかり、留学に来たのだという。今回のコンフェデ杯には、ロシア人の恋人ナターリアと夜行バスに乗ってカザンまでやって来た。2人ともコロンビア代表のユニホームを着ていた。
やがてイバンという青年もチェックインしてきた。彼は、ペンザという町からやって来た。私たちは自然な流れからサッカー談義に興じた。英語の通訳はデービッドが担当した。イバンが「僕はドイツを応援しているんだ。彼らは若くて、能力が高くて、魅力的なチームだよ」と口火を切った。ナターリアは「私はメキシコのサッカーが好き。ロシアじゃなくて、メキシコを応援するの」と言う。
私は「チリを応援するよ。俺は2015年のコパ・アメリカ(南米選手権)で、チリとは美しい思い出があるんだ」と意思表明した。ここまで誰もロシアを応援する者はなく、「じゃあ、僕がロシアを応援するしかないじゃないか……」とデービッドが言って苦笑した。
「希望だけは、私たちは捨てていない」
実際にボランティアをつかまえて、その夜の予想を尋ねると、彼ら・彼女らは「ポルトガルは強いチーム。だけどサッカーは何でも起こり得る。ロシアが勝つことだって可能」と答えるのだが、この白板からは「賭けるならポルトガル」という本音が透け出ていた。
私は、白板の写真を撮っていた。ナターリアにこれを見せて説明すると、大声で笑い出して、突然、エアサッカーを始めた。彼女は華麗なフェイエントでボールをまたぎ、パスを出した後、満足そうな顔をしながら動きを止めて、遠くで味方がプレーするのを眺め続けていた。
「これがロシア代表のサッカーだったの。ロシア人のトッププレーヤーはテクニックがあって、人気もあって、お金持ちなんだけれど、自分のプレーに酔っていた。そんな彼らが私は大嫌いだった。ホント、アイスホッケーの選手を見習ってほしい」とナターリアの指摘は手厳しかった。
「でも、昨日のゲーム、ロシア代表は頑張った」と彼女は続けた。「ポルトガルに敗れたけれど、最後までロシアは諦めず、一生懸命汗を流したんだから」
イバンがナターリアを引き継ぐ。
「今のロシア代表はとても若い。ポルトガル戦のメンバーはCSKAモスクワ、クラスノダール、スパルタク・モスクワ、ロストフ、ゼニト・サンクトペテルブルクのメンバーで占められていたけれど、 それまでは2部リーグでプレーしていた選手も多い。昨日、C・ロナウドをフリーにさせた13番のDF、ヒョードル・クドリャショフは30歳だけれど、トップクラスのチームでの経験はない。彼は経験不足から致命的なミスを冒したんだ」
「『最後に残るのは希望』と言うじゃない!? もうワールドカップ(W杯)まで1年だけれど、ロシア代表のサッカーは思い通りに進んでない。だけど、希望だけは、私たちは捨てていないの」とナターリアが奇麗にまとめてくれた。