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テネリフェは柴崎岳のチームとなっていた
「ブレない心」で自身の価値を証明

ひっそりとロッカールームへ消えていった柴崎

テネリフェの1部昇格はならなかったが、柴崎岳は決勝第2戦でもアシストを記録し、存在感を示した
テネリフェの1部昇格はならなかったが、柴崎岳は決勝第2戦でもアシストを記録し、存在感を示した【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 試合終了の笛と同時に、喜びに沸くホームチームのスタンドのファンが一斉にピッチになだれ込んできた。緑の芝生がみるみるうちに青色の人々で埋め尽くされていく。


 その光景を目の当たりにしながら、いったい何を考えていたのだろうか。柴崎岳がようやくベンチを後にし、ひっそりとロッカールームへ消えていったのは、それから5分以上が経過した後のことだった。



 現地時間6月24日に行われたリーガ・エスパニョーラ1部昇格プレーオフ決勝第2戦。1−0で先勝したホームでの第1戦とは対照的に、この日のテネリフェは前半9分、12分と立てて続けに失点してしまう。


 珍しく9割方の席が埋まったヘタフェのホーム、コリセウム・アルフォンソ・ペレスに「シー、セープエデ!(Yes We Can)」の大合唱が響き渡る。


 このまま早い時間帯に勝負を決められてしまうのか。カナリア諸島から駆け付けた1000人以上のティネリフェーニョス(テネリフェファン)を絶望が支配し始めた17分、スタンドのお祭りムードを一変させるゴールが生まれた。


 敵陣中央でクリアボールを拾ったアイトール・サンスが、左サイドに開いた柴崎の前方へパスを送る。ボールに駆け寄った柴崎は左足インサイドでニアポスト手前のスペースへクロス。これを走り込んだ“チョコ”ロサーノが滑り込みながら右足で押し込み、ゴールネットを揺らした。


 この時点で2試合合計スコアは2−2。追い詰められたテネリフェが再びリードを取り戻す重要なアウェーゴールを生み出したのは、またしても柴崎だった。だが、37分にもヘタフェにゴールを許し、1−3の敗戦。テネリフェの1部昇格はついえた。

スペイン2部では十分すぎるほど通用した

カディスとの準決勝第2戦では、柴崎がチームをプレーオフ決勝へ導く決勝点を決める
カディスとの準決勝第2戦では、柴崎がチームをプレーオフ決勝へ導く決勝点を決める【Getty Images】

 リーグ4位で進出した昇格プレーオフの4試合で、柴崎はテネリフェの全3ゴールを生み出している。


 6月18日に行われたカディスとの準決勝第2戦では、前半34分にスソ・サンタナの右からのクロスを右足で蹴り込み、チームをプレーオフ決勝へ導く決勝点を決めた。21日のヘタフェとの決勝第1戦では、前半22分に右コーナーキックをホルヘ・サエンスの頭に合わせ、この日唯一のゴールをアシスト。そして第2戦でも流れの中で得た唯一のチャンスボールをゴールに変え、崩壊しかけていたチームを勝負に踏みとどめた。


 4試合で3ゴールに絡んだだけでも十分、賞賛に値する活躍である。だが本当に特筆すべきは、普段とは別種のプレッシャーがかかるプレーオフという大舞台で、これだけの結果を出したことにある。リーグ戦では出場12試合で、同じく1ゴール2アシストを記録。ただ2つのアシストはどちらも「ゴールの1つ前のパス」ではあるが、実質的にはパスの受け手が独力で決めたものだった。


 テクニックや視野の広さ、戦術眼といったプレー面の特徴は、少なくともスペイン2部では十分すぎるほど通用する。そのことは数試合ピッチでプレーした時点でよく分かった。だがこのプレーオフを通し、彼はヨーロッパで生き抜いていく上で最も重要な要素を持ち合わせていることを証明してみせた。


 それは舞台や対戦相手を問わず、常に平常心でプレーできる「ブレない心」である。

指揮官は柴崎の冷静沈着さを高く評価

テネリフェのホセ・ルイス・マルティ監督(左)は、柴崎の冷静沈着なメンタリティーを高く評価している1人
テネリフェのホセ・ルイス・マルティ監督(左)は、柴崎の冷静沈着なメンタリティーを高く評価している1人【Getty Images】

 クラブが不安障害と公表するほどに体調を崩したこともあり、加入当初はサッカー以前の問題として、島の生活に適応できぬまま、早々に帰国してしまうのではないかとまで心配された。


 それがひとたびピッチに立ち始めると、それまでの心配が嘘のように、ひょうひょうとプレーするのだから分からないものだ。


 日本人選手が海外で生き残っていくために必要だと言われてきた、強烈な自己主張が柴崎に見て取れるわけではない。パスが来なくても怒らないし、ゴールを決めても喜びを爆発させるようなリアクションは見せない。よくも悪くも「技術はあるがパッションに欠ける」という日本人選手のイメージ通りである。


 だが柴崎の場合、スペインでは「フリアルダ(無頓着、冷淡さ)」と表現されがちなその性格が、マイナスイメージにつながっていないところが面白い。


 テネリフェのホセ・ルイス・マルティ監督は、彼の冷静沈着なメンタリティーを高く評価している1人だ。


 6月10日の2部リーグ最終節。テネリフェはプレーオフ進出を決めた前節ナスティック・タラゴナ戦から6人の先発を入れ替えてサラゴサとのアウェー戦に臨んだ。その中で柴崎は7戦連続で先発フル出場。しかもトップ下やサイドMFで起用されたそれまでの数試合とは違い、スタートから70分すぎまでボランチでプレーした。


 試合後の会見でボランチ起用の理由を問うと、指揮官からはこんな返答が返ってきた。


「あのポジションで試してみたかった。彼はボランチでも戦えるし、チームに多くをもたらすことができる。守備力も高いが、何より落ち着いてボールをさばける能力がある」

工藤拓
工藤拓

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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