田中とダルビッシュがメジャー初対決 初夏の夜の熱戦はまさにドリームマッチ
なかなか本来の投球を見せられない田中だが、この日は8回無失点の好投を披露した 【Adam Hunger/Getty Images】
結果は2人合わせて15イニングを投げ、無失点、合計19奪三振という最高の内容になった。これはもう“日本人対決”の枠でくくってしまうのももったいない。ともに開幕投手を務めた両チームのエース同士は、メジャーでもめったに見られない“マスターピース(絶品)”。両雄は伝統のスタジアムに集まった39,602人の大観衆を魅了し続けたのだった。
「もちろん相手がダルさんだっていうのは頭にあったが、ゲームに入れば対戦するのはバッター。1球1球しっかりと意志を持って投げられた」
ア・リーグ5位の得点力を誇るレンジャーズ打線を8回まで散発3安打無失点、2四球、9奪三振に抑えた後、田中はこの日の登板を冷静に振り返った。
3回途中から8回2死まで、16打者連続で凡退させるという支配的な投球。スライダー、スプリッターにはキレがあり、最高96マイル(約155キロ)の速球は尻上がりに勢いを増しているように見えた。何より大きいのは、特に中盤以降、田中から吹っ切れたような躍動感が感じられたことだ。
田中にとっては完全復活の転機に
この日の試合前、顔見知りの某ア・リーグチームのスカウトからそんな“逆取材”を受けた。5月8日以降は勝ち星から見放され、前戦を終えたところでの防御率は6.34という信じられない成績。「故障しているのか」「クセを読まれているのでは」といった推測に加え、最近では「飛ぶボールの影響を受けているのかも」といった声まで挙がり始めた。
結果が出ないと騒がしくなる大都会。大黒柱の役割を果たすはずだった日本人右腕の不振は、ヤンキースの中でも最大級のミステリーになった感がある。
しかし、レンジャーズ戦の前日に、田中は「(調子は)上がってきている」と明言していた。そして、この日はその言葉通りの“快刀乱麻”。米メディアの間でも注目度は低くなかった日本人エースの直接対決で結果を出し、これで危機論はひとまず沈静化するだろう。
「(復活の手応えを)感じていても、(メジャーで対戦するのは)簡単な相手ではない。今日のことは今日のこと。1日1日、一つ一つ、自分の次の登板に向けての準備をしっかりとして、試合に臨みたい」
試合後、田中はそう語って気を引き締めた。
5月中盤以降は好内容を2戦以上続けられていないだけに、まだ安心するのは早すぎる。ただ、ジョー・ジラルディ監督が「今季最高のパフォーマンス」と呼んだこの日のピッチングは、周囲に再び期待感を持たせるのには十分。今後、ついに調子の波に乗ったとすれば、ダルビッシュと真っ向から渡り合った6月23日が今季のターニングポイントとして記憶される可能性もある。