菊池雄星、またもソフトBに勝てず 西武の“真のエース”へ試練は続く

中島大輔

23日のソフトバンク戦、3回途中7失点で降板した西武・菊池(写真右) 【写真は共同】

 まるで、別人がマウンドに立っているようだった。

 交流戦明け初戦の6月23日、埼玉西武の菊池雄星は敵地・ヤフオクドームで行われた福岡ソフトバンク戦に先発すると、3回途中までに7点を奪われてこのイニング途中でKO。今季ここまで12試合に登板して7勝2敗、両リーグトップの防御率1.43と球界きっての安定感を誇っていたものの、プロ入り15戦で0勝10敗だったソフトバンクにまたしても打ち砕かれた。

「悔しいですけど、まだシーズンであと何回か対戦できると思うので……」

 ヤフオクドームの通路から引き上げながら、菊池は悔しさをかみ殺すように話した。

ブルペンでは抜群だったはずが…

 今季は“球界ナンバーワン左腕”と断言していいほど質の高い球を投げ、それに見合うだけの成績を残してきた。今年のソフトバンク戦では2戦2敗だったが、内容は悪くない。実際、捕手の炭谷銀仁朗は試合前にこう話していた。

「昔の雄星とはまるっきり違うのでね。今日は(立ち上がりが)あかんかったらあかんまま(試合が終わる)とか、今日は投げ方がバラバラだったということが今シーズンは一切なく、安定していると思います。言い方は悪いですけど、普通に勝てると思う。(ソフトバンク戦という)意識をあまりしないように」

 ところが、ふたを開けてみれば67球で被安打7、7失点、与四死球3で3回持たずに降板。試合後、辻発彦監督もこう話した。

「どうしたんだろうな。やっぱり意識するのかな。『ブルペンでは真っすぐが走っている』という話を聞いていた。その割には腕が振れていないというか、真っすぐが来ていなかった」

 球を受けた炭谷自身、「ブルペンでは抜群だった」と振り返っている。

 それがなぜ、木っ端微塵(みじん)に打たれたのか。防御率1.43だった左腕がなぜ、試合序盤に炎上したのか。ストレートは普段より10キロ近く遅い140キロ台前半を記録するほど走らず、スライダーもことごとく抜けていたのか。

 勝利したソフトバンクの工藤公康監督は、こう話している。

「言えるとしたら、(ソフトバンクの)みんなが自信を持っていっているんじゃないかな。彼のいいところはストレート。そのストレートにうまく合わせていた」

 一方、ブルペンと試合のマウンドでは何が違ったのかと聞かれた菊池は少し考えた後、「マウンドに上がっているときも、初回もそこまで悪くはないと思ったんですけどね。でも、(指に)引っ掛ける球も多かったし」と振り返った。

軸となる球を見つけられず、失点重ねる

 初回、1番・川崎宗則のショートへの内野安打は、飛んだところが悪かった。続く今宮健太に送りバントを決められ、迎えるは3番の柳田悠岐。異変が見えたのはこの場面だ。2球続けたストレート、スライダー、そしてストレートがすべて抜け、4球続けてボールで歩かせる。

 すかさずマウンドに向かった炭谷は、菊池に語りかけた。

「(ソフトバンクを)意識せんように、普段通りにやってと言いました。誤解してほしくないですけど、1点取られてもきゅうきゅうとしないようにという話をしに行きました。やっぱりどこかで意識して、大事にいこうとか、いつも通りに投げられていないような気がしたので」

 炭谷はマウンドでのやり取りをそう明かすと、逆に聞いてきた。「本人とはまだしゃべっていないけど、何て言っていました?」

 菊池は、柳田を迎えた場面についてこう振り返っている。

「完全に4球とも抜けてフォアボールだったので。何か軸になる球を見つけられないまま……点を取られてしまいました」

 この言葉を伝えると、炭谷は謎を解くように語り出した。

「ということは、やっぱりプレーボールのマウンドに上がった時点で本人は“ブルペンとは違う”と感じていたわけじゃないですか」

 ストレート、スライダーともに操れないまま柳田を歩かせた後、4番・松田宣浩に2ボール2ストライクから低めのカーブを拾われて先制点を許した。この回は最少失点でしのいだが、球威、コントロール、キレともに欠いて計7失点。今季は立ち上がりが悪くても修正してきたものの、この点でも“別人”だった。

「仮に相手がソフトバンクじゃなければ、こういう日もあるって割り切れるかもしれないけど、同じ相手に何回もやられているということは、きっちり反省するところは反省して、次に生かさなければいけないと思います」

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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