本田圭佑は日本代表でまだまだ輝ける プレーで示した「落ち着かせ役」の存在感

元川悦子

本田が指摘する「精神的な問題」とは?

本田が指摘する「精神的な問題」とは何だろうか 【Getty Images】

 決めるべきところで決められないのは、今季ACミランで出番に恵まれなかった影響もあるのではないか。本人も5月下旬の欧州組合宿の際、「フィジカル的には問題ないけれど、感覚的なものは、やってみなければ分からない」とコメントしていたが、やはり好調時の感覚とは微妙な狂いが生じているのだろう。

 本田の不満は第一に自身のパフォーマンスに向けられたが、チーム全体の戦い方にも納得いかないところが多々あったようだ。

「変な誤解を招くし、あまりしゃべりたくないですけれど、当然ながら監督がやりたいサッカーはしっかりとあって、そしてそれをストレートに伝える人なので、それを若い選手は聞き過ぎてしまう。ピッチの中では自由にやっていい部分もあって、それは監督も言っているんですけれど、どうしてもそこの整理をうまくできずに、こういう大事な試合で自分の持っている力の半分くらいしか出せない選手も実際にはいる。それはまさに技術的な問題ではなくて、精神的な問題です」と本田はズバリ指摘したのだ。

 本田ほどのキャリアと経験値があれば、ハリルホジッチ監督相手に堂々と渡り合えるが、キャップ数の少ない若手は「監督の言う通りにプレーしなければ外される」という恐怖感がどこかにあるのかもしれない。とはいえ、自己判断力と自主性を持った集団にならなければ、日本代表はいつまで経っても指揮官の志向する縦一辺倒に偏ったチームのままだ。

 この日の本田が「落ち着かせ役」としてインパクトを残したように、全員が行くべきところ、引くべきところの判断を柔軟に下せるようにならなければ、世界で勝つどころか、アジアでも相手を圧倒することはできない。今の日本がUAEに負けたり、イラクに追い付かれたりするのも、こうした脆さがあるからだろう。こういった部分を残り2戦で抜本的に改善するのは至難の業だが、少しでも修正できるよう、仕向けていくしかない。

「次の試合に自信を持っている」

ミラン退団を明言している本田には、今後、新天地探しが待っている 【Getty Images】

 最終予選ラスト2戦は8月31日の埼玉スタジアムで行われるオーストラリア戦と、9月5日のアウェー・サウジアラビア戦となる。ラストの相手であるサウジアラビアは8月29日にUAEでのアウェーゲームがあるため、移動距離と試合間隔という意味で、相手が断然有利な状況にある。

「もし日本がオーストラリアに勝てなかったら、その時は混乱すると思う」と本田は外国人メディアに対し率直な思いを口にしていたが、その言葉通りオーストラリア戦でW杯出場を決められなければ3位転落もあり得る。日本はこれまで以上の危機感を持つべきだ。

 本田自身もこれから新天地探しという重大事が待っている。このイラク戦は「本田圭佑は日本代表でまだまだ輝ける」という事実を示す好機になったが、次の行き先次第では立場が逆戻りしてしまう可能性もあるのだ。

「僕自身は次のシーズンにどこでプレーするかは決まってない。でも3カ月近い時間があるし、フィジカル面やコンディションを整えることは十分可能。今はたくさんのけが人がいて、今回も新たな負傷者が出ましたが、次は確実に戻ってこられる。僕は次の試合に自信を持っています」と本田はキッパリ言い切った。

 この言葉通り、次戦でロシアW杯への切符を手中にするためにも、本田にはよりよいキャリアを築ける道を見いだしてほしい。大きな期待を持って2カ月半後を迎えたい。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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