U−20W杯で浮き彫りになったトレンド 3つの「新ルール」が与えた影響とは?
「伝統のスタイル」でイングランドが初優勝
正々堂々と殴り合う伝統的なスタイルで、イングランドがU−20W杯初優勝を果たした 【写真:田村翔/アフロスポーツ】
小細工なし。正々堂々と殴り合うイングランドの伝統的なスタイルは決勝戦でも健在だった。
しばしば「ファイナルらしい試合」として慎重な立ち上がりから、互いにリスクを避けて様子見のようなプレーに終始するゲーム展開を指すことがあるが、この日の決勝戦にそうした表現は似合わなかった。決勝に臨んだイングランドは、これまでの試合でそうだったように、たけだけしいまでの迫力をもって、序盤から攻める姿勢を見せていく。世代が違おうとも、カテゴリーが違おうとも、「イングランド」にはいつも明確なスタイルがある。それは「文化」という表現のほうが合うかもしれない。倒れてファウルをもらうことをよしとせず、力強く前進していくことを選択する――そういう気風をピッチに立つ全員が自然とシェアしている点も同じだ。
対するベネズエラは「南米の野球大国」として知られる国だが、21世紀に前後して少しずつ育成年代から結果を積み上げてきた「南米のサッカー新鋭国」である。U−20W杯はこれが2度目の出場となったが、グループステージを3戦全勝で勝ち抜けると、ラウンド16では日本との120分の死闘を制し、その後も準々決勝、準決勝といずれも延長までもつれ込むロングバトルを勝ち抜いての決勝進出となった。国内は独裁政権の野放図な政策と、それに反対する人々の間で混乱が広がっている情勢で、選手たちのSNSをのぞいてみるだけで、彼らが背負っているモノの重さが痛いほど伝わってくる。
そしてだからこそ、彼らが大会を通じて見せてきた、足が動かなくなってなお気力で戦い抜く姿勢はこの試合も健在だったのだろう。やはり、ベネズエラはファイナルでも強く、たくましかった。序盤はイングランドの勢いにのまれた印象もあり、前半35分にはイングランドらしいシンプルな攻撃からFWドミニク・キャルバート・ルーウィン(エバートン)に先制ゴールを浴びるも、徐々に盛り返していく。
小柄な日本人の“お手本”となるソテルドのプレー
ソテルドを中心に盛り返したベネズエラだったが、PKの失敗もあり0−1で敗戦 【写真:田村翔/アフロスポーツ】
準々決勝からスーパーサブとして得難い働きを見せてきた背番号10は、投入早々に鮮やかなステップでDFをはがしつつ、隙間を縫うようなスルーパスを通して決定機を演出すると、以降も幾度となくイングランドDF陣を脅かす。現地で試合を視察し、彼のプレーを「日本の体の小さな選手にも励みになるし、参考にする点が大いにある」と評していたのは柏レイソルU−18の芳賀敦コーチだが、この日のプレーはまさに“お手本”になり得るものだった。
この流れに対し、イングランドはクロス対応での負けはないと判断したのだろう。守備では大男たちで中央を徹底的に固めて、ベネズエラの攻めを外に流しつつ、攻撃では信じ難いスピードを持つ“1人スルーパス”の使い手、FWシェイ・オジョ(リバプール)を前線に投入。守りを固めながらカウンターで刺すという構えを見せた。
だが、ベネズエラも伊達(だて)にここまで勝ち上がってきたチームではない。大人しくクロス攻撃を繰り返して跳ね返され続ける愚行を犯すことなく、狭い中央を使いながらこじ開けにいく。迎えた後半29分には、縦パスからFWアダルベルト・ペニャランダ(マラガ)が抜け出す決定機を作り、PKを獲得してみせた。だがペニャランダが自ら蹴ったこのビッグチャンスは大会の最優秀GK賞を獲得することになるGKフレディー・ウッドマン(ニューキャッスル)に阻まれて、ゴールならず。結局、このPK失敗のツケを最後まで払えなかったベネズエラは、イングランドの堅陣を貫くには至らなかった。
3万人の観衆は1−0のスコアで試合終了の笛を聞くこととなり、勇猛果敢なスリーライオンズの弟たちに「W杯」がもたらされた。
セントラルMFのジョシュ・オノマー(トッテナム)のような尋常ならざる身体感覚、運動能力の持ち主を各ポジションに配し、「1対1で勝つのは当たり前」と言うべきシンプルな戦術を組み込んでいるイングランドの勝利は、日本サッカーにとっては少し微妙な気持ちになるところもある。1年半前に親善試合でイングランドと対戦して1−5と大敗を喫した日本の選手たちは「大人と中学生の試合みたいになってしまった」と衝撃を語っていたが、その「差」が埋まった印象はない。日本との試合であれほど脅威になったベネズエラの空中戦が、ほとんど抑え込まれていたのは何とも象徴的だった。